「ネギ畑」

 バスを降りて、自宅に向かう途中に、畑がある。

 綾夏と手をつないで、保育園から帰るとき、この畑には元気なネギ坊主が頭を並べていた。
 保育園から帰るルートは
2つあり、この畑の横を通って帰るルートを選ぶとき、綾夏は「ネギ畑から帰る」と言った。畑の周りには、肥料のおこぼれをもらったのか、元気なつゆ草が育っていて、綾夏と私はそれを摘んで帰って、色水遊びをしたりした。 

 畑は、日に焼けた小柄なおじいさんが、一人で黙々と耕しておられた。

 しかし、突然に、綾夏はいなくなってしまった。

綾夏がいなくなってもネギ坊主は、相変わらず畑に頭を並べていた。

 私は、「今日はネギ畑から帰るよ」と言いながら、それを泣きながら眺めていた。

しかし、いつの間にか、畑におじいさんの姿を見ることが無くなった。

そして、ネギ坊主を見ることも無くなった。

 先日、バスを降りて、畑を見ると、畑は一面、カラスノエンドウに覆われていた。おじいさんが耕した畑は居心地がいいと見えて、カラスノエンドウはとても元気よく、ピンク色の花を大きく咲かせていた。夜更けだというのに、月が冴え冴えとカラスノエンドウ畑を照らしていた。

 季節は巡り続ける。

 でも、あの夏は二度と来ない。

 あの日、おじいさんが力強く畑に鍬を入れていた。

 あの日、私たち親子は、それを手をつないで見ていた。

 あの時には、単なる日常。

 今から思えば至福のひととき。