「僕とあたしの未来」 あの日のことまるで昨日のように覚えてる。 中1の2学期、君が教室の前で挨拶してた時のこと。 なのに、また君の挨拶を聞くことになるなんて、想像もしてなかった。 「え・・・と、父の転勤が決まって、北海道に引っ越すことになりました。 もうすぐ卒業だったのに、みんなと一緒に卒業式に出られないのが、 とっても残念です。向こうに行っても、みんなのこと忘れないから。 みんな、頑張ってください!!僕も頑張ります!!」 パチパチパチとクラスの中で拍手が起こった。 泣いてる女の子もいる。君はいつも、女子にモテモテだったもんなぁ。 あたしは・・・泣けなかった。というか、倒れそうなくらい頭が真っ白で、 からだが冷たくなって、胸がしめつけられるように痛んだ。 イマゴロキヅイテモオソイヨ。 ううん、今気づいたんじゃない。気づかないふりしてただけなんだ。 とっくに気づいてた、自分の本当の気持ち。 オソイヨ・・・。 学校から一人で帰る時、そうつぶやいたら、初めて涙が出た。 クリスマスが終わったらお正月なのに。楽しいこといっぱい続くはずなのに。 年が明けて学校が始まったら、君はもういない・・・。いないんだ。 誰にも涙を見られたくないから、赤くなった鼻を隠して、あたしは家まで走った。 「ただいま」って靴を脱いで、だだだっと階段を駆け上がった。 バタンってドアを閉めて、ベッドにつっぷした。 そういえば君は、一度だけ、たった一度だけ、この部屋に来たことがあったっけ。 グループのみんなで、君が買ったばっかりだっていうジグソーパズル やったんだった。 でもどうしても最後のピースが見当たらなくて、完成できなかったんだ。 なんでなかったんだろう?新しいパズルのはずなのに・・・。 クローゼットを開けて、たくさんの思い出がつまったアルバムを出してみた。 そっと開いてみると、みんなの笑った顔の中に、君がいた。 あたしは後ろの方で、君の方を見ていた。 この目線、バレバレだっつーの。 次のページを開くと・・・あれ?何これ??ジグソーパズルのピース?! まさかあの、どうしても見当たらなかったあのピース? でもなんでこんなとこにあんの?!本当に君の?! 次の瞬間あたしは立ち上がった。もう迷うことなんてない。君の家まで、 猛ダッシュで走った。 ピンポンで出てきた君は、「どうしたの?そんなに急いで?」と きょとんとした顔で、あたしを見た。 「こ、これ・・・」はぁはぁと息をつきながら、あたしはそっと手を開いた。 「これって・・・」 いつものように目を丸くして君は言った。 「これ、サクライくんの、あの、ジグソーの、足りなかった、ピース、じゃない?」 途切れ途切れにあたしは答えた。 「なんでか、わかんないんだけど、アタシの、アルバムの中に、はさまってたの・・・ よくわかんないけど、サクライくんの、でしょ?だから返しに、来たの」 君が、半分困ったような顔をして笑った。 「それ、僕がアルバムにはさんだんだ・・・」 「え?どーゆーこと?」 確かにあの日、みんなでアルバムを見ていた。でもわざわざ君が?なんで? 「わかんないかなぁ・・・?」 「え?え?!」 「ちょっと上がってよ」 「なに・・・・・・??」 君はあたしを自分の部屋に連れて行って、アルバムを開いて見せた。 「ほら、これ」と1枚の写真を指さした。 「あ・・・」それはあたしが君の後ろ姿をガン見してるやつだった。 あたしは真っ赤になって、なんにも言葉が出なかった。 すると、君は「でもさぁ、こっちも見てくれる?」そう言って指さした先には、 君があたしの方をじーっと見ている写真があった。 まさか・・・?! 「ごめん、言えなかった・・・勇気がなくて言えなかったんだ、好きだってこと」 「・・・・・あたしこそごめんね・・・もっと素直になればよかった。 ずっと好きだったのに・・・」 「もう遅いよね・・・」って言いかけたあたしを、「遅くないよ」って、君が さえぎった。 「そのピース、わざわざアルバムにはさんだのは、いつか君が気づいて くれるんじゃないかって思ってたからなんだ。それになんか完成させたくなくって・・・ だからそのピース、ずっと持っててくれないかなぁ?」 「あたしが?」 「持っててよ。またこっちに戻ってきたら、てか、東京の大学入って絶対戻ってくる から!!その時まで持ってて」 「サクライくん・・・さよなら・・・じゃないよね?」 「さよならじゃないよ!!絶対!!」 初めて君の指にふれた。君があたしの手をぎゅっと握った。 君の手はあったかかった。冷たかったあたしの指先は熱くなった。 今年初めての雪が、空からひらひらと降ってきた。 BGM : 「迷宮ラブソング」 勝手にすぺしゃるさんくす : 私もやってた進研ゼミ中学講座の CMに出てる学ラン姿の櫻井さん(^^ゞ |