「僕とあたしの未来 10 〜再会は春風にのって〜」 中学の卒業式を待たずに、サクライくんは転校していった。 あれから3年余りの月日が流れた。 はじめのうちは、お互いに電話やメールのやり取りをしていたけど、 高校2年の後半あたりから、だんだん数が減り、3年に入ると、 ほとんど連絡が途絶えてしまった。 ただ一度だけ、お互いに「志望校合格したよ」「じゃ、同じキャンパスで会えるね」 っていうメールを交わした以外は。 やっぱり二人の間は、実質的な距離だけじゃなくて、心の距離も少し遠くなって しまったのかなぁ・・・。 あたしはあの日のパズルのピース、まだ大切に持ってるよ。 春になり、待望のキャンパスライフが始まった。 家から通うにはちょっと時間はかかるけど、新しい世界で見るものすべてが なんだか新鮮で、あたしは日々の生活を満喫していた。 今日もバタバタと駅の改札を抜けて、大学に向かおうとしていた、その時。 後ろから「すみません・・・」と声をかけられた。 振り向くと「これ、落としましたよ」と言う、大学生らしきメガネ男子が。 「すいません!!ありがとうございます!!」と言って受け取った二つ折りの パスケースは、ぱっかりと開いて、中に入れていたサクライくんの中学時代の写真が 見えていた。 う、この人に見られた・・・。なんか気まずい空気が流れてる。 もうさっさとこの場から逃げ出してしまいたい!! すると、そのメガネ男子が「もしかして?君??」と言い出した。 「え?」と、あたしは一瞬、なにがなんだかわからなくなった。 「俺だよ、俺。サクライ」そう言いながら、メガネをはずした。 「え?サクライくん?!」 あの頃、あたしと大して背が変わらなかった君は、あたしよりずっと背が 高くなっていた。 しかも秀才顔が、メガネをかけてますます秀才になっていて、ちっとも 気づかなかった。 けど、メガネをはずしたその大きな瞳は、あの日のサクライくんと変わってなかった。 「ごめん、全然連絡できなくて・・・。大学始まったら連絡しようと思ってたんだけど ・・・ごめん!!」 「ううん、あたしこそ連絡してなくってごめんね」 二人で大学までの通りを、話しながら歩いた。 「東京で一人暮らししてるの?」 「いや、あれからまた父が転勤して、今は東京」 「戻ってきたんだ?」 「うん、前住んでたとことは違うけど。実家から通うとラクだよね」 「大学、ちょっと通うの遠いけどね(^_^;)」 まだ枝に残ってる桜の花びらが舞っている。風が心地いい。 校門を抜けて、キャンパス内に入っていくと、サクライくんが急に足を止めた。 「今日何限まである?」 「えと・・・今日は4限で終わり・・かな」 「俺もそうだから、終わったら一緒に飯でも食わねぇ?」 「うん!いいよ!」 あたしはガッツポーズしたいくらいうれしかった。 4限が終わって、あたしはダッシュで待ち合わせしてた校門の前に急いだ。 「またそんなに急いで走ってきて・・・変わってねぇなぁ」 サクライくんが笑った。そうだよ、その笑顔、サクライくんこそ変わってない。 近くにあるカフェに入った。いっつも混んでてなかなか席が空かないけど、 ここのランチはおいしいから。 「懐かしいなぁ・・・話が尽きないかもな・・・」 「サクライくん、すっかり大人っぽくなっちゃって」 「俺?それを言うなら君でしょ?すっかり女子大生じゃん?」 「そうかなぁ?」 「そうそう、新歓の合コンとか引っ張りだこじゃないの??」 そう言いながら、メガネの奥の目がいたずらっぽく笑ってる。 「そうね、中学の時よりはモテるかもね・・?」 なんて背伸びして言ってみたりして。 「まぢ?そんなにモテんの??」 「じょーだんに決まってんでしょ?それよりサクライくんの方だよ。 まぁ中学からかっこよかったけどさー、ますますかっこよくなっちゃってー!! 合コンじゃ両手に花、じゃない?」 「んなわけねーだろー?」 「ウソつくのも上手くなったね」 「お互いさまだろ?」 一瞬、会話がとぎれた。こんな時あたしは、いつも戸惑ってしまう。 何かしゃべらないと・・・って焦れば焦るほど、言葉が出てこない。 「とりあえず、飯食っちゃおう!」 「そうだね、冷めちゃう」 おいしいランチのはずなのに、全然喉を通んない。味もわかんなくなっちゃってる。 君はおいしそうに食べてる。あたしはそんな君の姿見てられるだけで、もうおなか いっぱいの幸せ・・・。 「あー、メガネやめてコンタクトにしよっかな?」なんて君が言い出した。 「だめ!!」あたしは即答した。 「なんで?目傷つけたりすることがあるから?」 「それもあるけど・・・だめ!!」 あぁ、こーゆーのって、少女マンガにあるよね?でもたいてい男の子が言うセリフ。 メガネ女子の彼女がメガネ取るとかわいいのを知ってる彼氏が言うの。 俺の前以外で、絶対メガネははずすな!!って・・・。 あぁ、そのマンガキャラの男の子になったつもりで言ってみたい・・・。 「なんでだめなの?」と、わざとなのかなんなのか、きいてくるサクライくん。 あたしは思い切って言ってみた。 「・・・サクライくんがかっこいいからに決まってるでしょー?!?! メガネ取ったら、いったいどーなっちゃうのよー?!?!?!」 「声、デカい・・・」 「あ・・・」 周囲の目が一斉にこっちを向いている。どこかでクスクス笑う声。 いやだー・・・逃げ出したい・・・。 「大丈夫だよー」とサクライくんは笑った。 「大丈夫じゃないから言ってんの。自分のことわかってないでしょ? 中学のサッカー部時代のこと忘れたの?ファンクラブだってあったじゃない?」 「そうかぁ?」 「1年から3年までファンクラブ会員、少なくとも20人はいたよ?」 「そんなのあったっけ??」 「あった!」 「そっかぁ・・・あんまり記憶ないや。俺の中にはひとりしかいなかったから」 「・・・・・・・・・・・・」 あたしは固まったまま動けなくなった。 「俺の中にはひとりしかいなかった」。もうメモしておいてサクライ語録作りたい!! 「ところでさ・・・あの時のピース、まだ持ってる?」 「・・うん、持ってる。箱に入れて大切にしまってあるよ」 「やっぱちゃんと持っててくれたんだな・・・」 「そりゃ・・・・・」 サクライくんが「持ってて」って言ったんだもの、大切に持ってるに きまってるじゃない・・・。 「それ、まだ持ってて」 「えー?まだ保管??」 「まだまだ!ずーっと持ってて」 「いつまで持ってればいいのよ?」 「俺が大学卒業して、就職して、それから・・・何年か経ったら」 「えー?なんでそんなに長い間持ってなきゃなんないのー?」 「相変わらず、わかんないヤツだな・・・」 「どうせあたしは鈍感ですよーだ!!」 「いつか俺が君を迎えに行く時、ピースもらうから」 「え?」 「ちょっと気が早いか・・・」 「そ、そーだよ!なに言っちゃってんの?」 あたしは焦りまくった。サクライくんも黙った。 そんなの考えられない。目の前の状態だって、いっぱいいっぱいなのに。 あの頃のあたしが見たら、絶対うらやましくて、泣くほどうれしいのに。 これからたくさん時を重ねて、サクライくんを見ていくんだ。 先のことなんてお互いにわかんないけど、あたしはめいっぱい見ていくんだ。 それだけでじゅーぶんだよ・・・。 「そろそろ出よっか」 「うん」 サクライくんとあたしは席を立った。学生だから当然ワリカンね。 外に出ると、春のあたたかい風が、サクライくんの髪をそっとなでるように 吹いていた。 あたしはクリップでまとめていた髪をほどいた。 「お?大人っぽくない?おねぇさん」 「そう?」 「じゃ、姫、行きますか」 「えぇ」 なぜだか自然に手をつないで、サクライくんとあたしは通りを歩きだした。 勝手にすぺしゃるさんくす : 櫻井王子様ーーーーーーっ!!(壊) 振り向きながらの「DAISUKI!」は、 何度見ても反則です。(@_@;) |