「僕とあたしの未来 14」



冬場にしては暖かい昼下がり、あたしはテレビを見ながらおせんべをかじっていた。
床暖房の上でごろごろしてたら、このまま眠ってしまいそうな・・・。
その眠気をかき消すかのように、インターフォンが♪ピンポーン♪と鳴った。

オートロックのインターフォンの映像には、見慣れない人が映っていたけれど、
あたしは「はい?」と出た。

「あ、いつもお世話になっております、『明日を楽しく』でお馴染みのアスラック生命、
 わたくし、と・み・ざ・わと申します。本日お伺いいたしましたのは、このたび新たに
 こちらの地域担当になりまして、ご挨拶方々参りました。それとですね、年に一度の
 ご契約のご確認の時期でして、お伺いしたのですがよろしいでしょうか?」
「あ、はい・・・」

あたしはオートロックのドアを開けた。
あぁめんどくさいなぁ。契約確認だけならいいけど、また保険特約すすめられるんだろうなー。

♪ピンポーン♪
今度は玄関のインターフォンが鳴った。

「はじめまして。『アスラック生命』の富澤です」
若干ハスキー気味の声がした。

「はい」とドアを開けると、こざっぱりとした身なりのメガネの男が立っていた。

「突然申し訳ございません。本日お伺いいたしましたのは・・・」
「それ、先ほど聞きましたから。どうぞ」
「失礼いたします」

リビングに通すと、「ほわぁ〜床が・・・あったけぇ〜・・・ですね」とおかしな一言を
つぶやいたアスラックの人。

「わたくし、アスラック生命西東京支社から参りました、富澤と申します」
と名刺を渡された。
「どうも。よろしくお願いします」とあたしは受け取った。

「本日ご確認いただきたいのは・・・こちらが奥様の今までのご契約内容なんですが。
 実はですね、このたび新たに特約対象の病気の数がプラスされまして、こちらに
 ご変更なさると、若干保険料が上がるのですが、たいへんお得になっております!!
 この機会にぜひご検討いただけたら・・・と思いまして・・・」
「保険料、だいたいいくらくらい上がるのかしら?」
「はい、こちらをご覧ください。わたくしが試算いたしましたプランなのですが、
 入院、手術等の病院におかかりになった日数がたった1日でも、お怪我をなさった際に
 おきましても、こちらの金額が支給されます。そして・・・」

すらすらと説明を続けるアスラックくん。

「あのー、いくらくらい保険料上がるの?」
「あ、はい、トータルで年間1万円ほどUPいたしますが・・・」
「うーん、1万ねぇ・・・」
「いかがでございましょう?」
「1万・・・」
「はい、1万円でございます」
「やっぱねぇ・・・ちょっと・・・」
「1万円UPで、こちらのお得なプランになるのですが??」
「やっぱり今までどおりでいいわ」
「そこをなんとか!!」

アスラックくんの、メガネの奥のすがるような目。う・・・。

「ごめんなさい、ちょっとお金が入用なの」
「ちなみに・・・何にお金をお使いになるのですか?」
「そこ、答えなきゃいけないとこ?」
「いえ、ご参考程度に伺っておこうかなと思いまして・・・」
「本が好きなので、その購入代がかかるんです!」
「ほぉ?どんな書物を?」
「主に・・・雑誌・・・」
「どのような雑誌を??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの、差し支えなければ、お教えいただけたら」
「なんでそんなに聞きたがるんですか?保険に何か関係あるの?!」
「いえ・・・ただ・・・あちらのお部屋にポスターが貼ってあるのが、チラッと
 目に入ってしまいまして・・・」

見られた。(=_=)

「奥様は相当、嵐、特に櫻井様がお好きなようでございますね?」

アスラックくんが若干ニヤリと笑ったとこを、あたしは見逃さなかった。(-_-;)

「相当お好きなようで・・・プッ」
「影山か?!」
「わたくし、あのドラマ、たいへん楽しく拝見しておりまして、言葉づかいに多大な
 影響を受けました☆」
「そう?そうよね?あれよかったわよね??特に影山のキャラが!!」
「そうですよね♪」
「あら?あなたのメガネ、よく見たら影山のに似てない?」
「はい。しかし残念ながら・・・あのようなお高いメガネは、わたくしには購入ができず
 ・・・似たようなものをかけさせていただいております・・・」

淋しそうな顔でメガネをさわるアスラックくん。(^_^;)

「保険屋さんなんだからお金持ちでしょう?」
「いえ、外勤業務はさほどお給料をいただけるわけではございません。歩合制ですし、
 いただけてもスズメの涙、微々たるもの・・・」
「んなことないでしょ?」
「外勤はつらいことも多うございまして・・・」
「そうね、内勤の方がラクかもしれないわね」
「なので・・・どうかわたくしのご提案いたしました特約変更を・・・!!」
「そこ、ね」
「はい!」

アスラックくんの、すがるような目、リターンズ。

「あぁ・・・奥様が特約変更さえなさってくだされば、わたくしの給料もUP、
 影山メガネも購入できるというもの・・・。それにこの特約変更ができないとは
 ・・・わたくし何たる失態!!我がアスラック生命におきましても、多大な損失と
 思われ・・・」

アスラックくんは頭をかかえて「無念・・・」とつぶやいている。(=_=)
さっき、「たった1万円」ってなことを言ってたのに?!

「奥様は、ガン保険などご検討されたことは?」

ふっと思いついたようにアスラックくんは言った。

「今のところないんだけど」
「我がアスラック生命は、ガン保険におきましても、力を入れておりまして、
 たいへんおすすめでございます」
「そうですか・・・」
「あの・・・ちなみにですね、こ・こ・だ・け・の話なんですが・・・」

アスラックくんが、いきなり小声になり身を乗り出した。
別に小声になって、耳打ちする必要はないんじゃないの?ここ家の中ですが?(=_=)

「こ・こ・だ・け・の話・・・この春からのアスラック生命のイメージキャラクターに、
 櫻井様が決まっておりまして・・・」
「うっそ?!そうなの?!?」
「ですので、この先ガン保険にご加入されますと、もれなく!幸せを呼ぶ青い鳥さん
 ストラップと、櫻井様プレミアムグッズがついてまいります。ただ春からの
 キャンペーンですので、お渡しできるのは先になってしまうのですが・・・。
 実はわたくし、広報部に知り合いがおりまして、春のキャンペーンCMなどの撮影にも
 関わっておりますため、何かとご便宜をはかれるのではなかろうか、と・・・」
「それはもしや?」
「はい!もしご検討いただけるのでしたら、こちらもいろいろとご用意させていただき
 ます!いかがでしょう?奥様?」
「そうね、ガン保険、お願いしようかしら?」
「奥様、さすがご決断がお早くていらっしゃいます!!」
「あたし、わりと即断即決だから」
「はぁ、そうでいらっしゃいますか。迷いが少ないということは、軸がブレないと
 いうこと。たいへんすばらしい!!」

アスラックくん、ベタボメだなぁ。それだけ契約が取れたっていうのがうれしいんだろう、
きっと。
てか、プレミアムにつられすぎじゃない?あたし。(^_^;)
アスラックくんの思うツボだ。(=_=)

「それでは・・・こちらの書類なのですが、ご記入をお願いいたします」

これがめんどくさいのよねぇ。でも、プレミアムグッズ及びそれ以上?のメリットには
代えられない。(^_^;)

細かい内容の記入と捺印が全部終わり、やっと書類を渡すことができた。
お茶をお出ししなくちゃ、と立ち上がると、「奥様、どうかおかまいなく」と
ご丁寧なアスラックくんは、恐縮気味に言った。

あたしは、テーブルの上の無造作なおせんべを片付け(^_^;)、紅茶を淹れた。
そしてティータイム用に買っておいた、チョコバナナスコーンをお皿に乗せ、
トレイに乗せてサーブした。

「スコーンでございますか?これはもしや奥様の手作り・・・?」
「イヤミに聞こえるんですが?」
「・・・失礼いたしました。でもまさにティータイムですね。では失礼して、
 お紅茶をいただきます」

ほぇぇ〜(^▽^)という顔のアスラックくん。

「奥様、こちらの茶葉はどちらの?」
「あら、あなたも紅茶詳しいの?」
「まぁ(^^ゞ」
「これは紅茶屋さんのオリジナルブレンド茶葉よ?あたしはここ以外買わないの」
「こだわり、でございますね?人はそれぞれ、曲げられないものってございますよね。
 わたくしのこだわりは・・・・・・・・」

と、やけにアスラックくんと話がはずみ、気がつけば保険の契約より世間話の方が、
断然長くなっていた。

すると♪ピンポーン♪とまたもインターフォンが鳴った。

「すみませーん!遅くなりました、西多摩生協でーす!!」

あぁ、今日は配達の日だった。やけに人が来て忙しい。

「ちょっと失礼します」とアスラックくんに言って、あたしは玄関に出た。
「今週分のお届けでーす!えと、あれ?伝票・・・あ、これこれ。それと・・・」

いつもながら、西多摩生協くんはどこか抜けている。まぁ憎めないキャラクター
ではあるのだけど。

「これで全部ですね?ありがとうございました!失礼しまーーーーーす!!」
「はい、ありがとうございました」

玄関先に積み上がった食材を、よっこらしょとキッチンへ運んでいる間、
アスラックくんは「ほぇ〜♪」とティータイムを満喫していた。

リビングに戻ると、「ところで奥様、学資保険はお入りになってらっしゃいますか?」
とアスラックくんが言い出した。
「え?おたくの生命保険には、学資保険もあるの?」
「あ、いえ、そういうことではなく・・・学資保険はぜひ!かんぽくんをよろしくお願い
 いたします」
「は?」
「実は先輩がかんぽくんのセールスをやってるもんですから(^_^;)」
「他社の宣伝までするの?!」
「一応先輩なので・・・」
「はい、ちゃんと入ってますから」
「そうですか。それはよろしゅうございました」

アスラックくんはにっこり笑った。

「あ、忘れておりました・・・」とアスラックくんはまたも言い出した。

「あのですね、ちなみに旦那様は、どちらの生命保険に加入なさっていらっしゃいます
 か?」
「え?!更に加入させるつもり??」
「いえいえ、そういうことではなく・・・もしよろしければ、スミセイもよろしくお願い
 いたします!!」
「また他社?!」
「はい、友人が勤めているものですから・・・」

どんだけ生保関係の友人知人がいるんだ?!(-_-;)

「それと、特約変更なさってくださった方に、「る?」でお馴染みの、こちらも差し上げて
 いるのですが」
と、ビール券を差し出した。

「ごめんなさい、うち飲まないの」
「さようでございますか。それでは・・・「からだに脂肪がつきにくい」でお馴染みの、
 こちらの方がよろしいですね?」
今度は、サラダ油を1本差し出した。

「あぁ、そちらは長年愛用してます。それならいただくわ」
「お子様は、甘いものはお好きでいらっしゃいます?よろしければ「食べちゃうもん」で
 お馴染みのこちらも」
チョビスケかい?!

「お顔を拝見したところ、奥様はマスカラは・・・」

拝見すんなっつの!(-_-;)

「思わずまぶたにキスしてしまいそうになる、こちらのマスカラもおすすめで・・・」
「まつ毛が抜けやすいから、マスカラはやめました」
「さようでございましたか。それは残念・・・もっともマスカラをご使用なさらずとも、
 十分おめめパッチリでいらっしゃいますよね。ハハハハ」
「あなた、いったい何のセールスやってんの?」
「ただの生命保険のセールスマンでございます♪」

タダモノじゃないと思うけど?(-_-;)
あなたのカバンの中にはいったい何がどれだけ入ってるの?!
まさかそれ、ミタバッグ?!

「それではわたくしそろそろ・・・」と立ち上がろうとしたアスラックくん、
いきなりおっとっととコケた。

ぶぶっ!!(笑)いや、笑っちゃいけない・・・。
「大丈夫ですか?」とあたしは手を貸そうとすると、
「すみません・・・わたくしあまり正座に慣れておりませんものですから・・・足が
 しびれてしまいまして・・・」
と、フラフラになった足で、何度もコケそうになりながら、どうにか玄関までたどり
着いた。

「それでは、また何かございましたら、何なりとご連絡くださいませ」
丁寧に挨拶をした後、アスラックくんは帰って行った。
あぁ、なんだったんだろ?かなりおもしろい人だったな。(^_^;)





そして1年後。





♪ピンポーン♪

「はい」と出ると、また見慣れない人が。
「わたくし、『明日を楽しく』・・・だっけ?・・・でお馴染みの・・・・・
 『アス・・アスラ・・・アスラック生命』から参りました、棚田と申します」
「あら?富澤さんは?」
「富澤は、担当地域が変わりまして、このたびわたくしがこの地域担当になりました。
 ご、ご契約の・・ご確認を・・・・・・・」
「あぁ、わかりました、どうぞ」

オートロックを開けた。

♪ピンポーンピンポーン♪

だから何度も鳴らさなくってもわかるっつの!

「はい」とドアを開けると、
「こんにちは。アス、アスラック生命から参りました、わたくし棚田と申しま・・・
 あれ?名刺・・・・・どこ入れたっけ???」

あちこちポケットをさぐったり、カバンを開けて見たりしている。

「あぁ、名刺はあとでかまいませんので」と、あたしの方が気をつかって言った。(-_-;)

あれ?なんだかどこかで・・・?

「あ!」とあたしは気づいた。
「あなた!!西多摩生協のおにーさん!!」
「はい、あれから転職しまして、アスラック生命のセールスマンになりました(^_^)b」

この人がこの地域担当・・・なんだか一抹の不安が・・・。(=_=)
あぁ、その心配的中。玄関先でカバンの中のパンフレットや書類をばらまいた!!(@_@;)
あわてて拾う新アスラックくん。

「失礼しまぁーーーーーーーす!」と元気だけはいいんだけど。(=_=)

リビングに入るなり、「ホントだ!あったけぇ!!」と一言。
「あ、富澤が、床に感動したと言っておりましたので、わたくしも期待しておりました」
なんか変な引継ぎやってるなぁ。(=_=)

「それと!富澤から預かってまいりました!こちらをぜひ奥様に、と」

渡された封筒を開けてみると・・・幸せの青い鳥ストラップと、イメージキャラクターの
櫻井様のプレミアムグッズが!!
おおおおおおおおっ♪やったぁぁぁぁぁぁ!!\(~o~)/
あれ?あと一つなんか入ってる。なんだろ?封筒を開けてみると・・・・・・
富澤さん直筆なんだかよくわかんないけど、「櫻井様CM撮影ご招待券」と書いてある。
裏には、撮影場所の地図が・・・これまたよくわかんない書き方で書いてあった。
一緒に、撮影スタジオに入れるスタッフ用の名札まで入っていた。

う・・・・・・ぞ・・・・・・。(倒)

「富澤が、よろしく伝えてほしいと申しておりました」
ふにゃふにゃ笑顔の新アスラックくんが言った。

アスラックくん、いえ、富澤さん、プレミアム過ぎるものをありがとうー!!
けど、あまりにもビッグなプレミアム過ぎて、現場で倒れる気がする、あたし・・・。(^_^;)







勝手にすぺしゃるさんくす : 富澤さん(櫻井様)&棚田さん(相葉様) by 「最後の約束」
                  お二人の苗字と櫻井様の生命保険セールスの設定を
                  お借りしました。すみません☆(^^ゞ