「僕とあたしの未来 15」



今、あたしの目が見えなくなったら。
今、あたしの耳が聴こえなくなったら。

怖いものなんかないって思っていたのに、
君の存在に気づいてから、怖いものがたくさん増えた。

今、あたしの目が見えなくなったら、君の顔が見えない。
今、あたしの耳が聴こえなくなったら、君の声が聴こえない。
いつか、君が遠くに行ってしまったら、あたしはどうなるんだろう?
怖くて怖くてたまらない。

左胸が痛くて、息が苦しい。
窓際の前から4ばん目の席で、あたしはため息をついた。

すると、君が戻ってきて、自分の席にすわった。
窓際の前から3ばん目、つまりあたしの前。

昼休み、教室には何人もの子がいて、おしゃべりしたり、ふざけ合ったり
してるのに、あたしにはただのざわめきにしか聴こえない。
聴こえてくるのは、自分のやたら速い鼓動だけ。

あたしはスケジュール帳を取り出して、意味もなく書き連ねる。
君はなぜか横向きにすわっていて、あたしの手元を見ている。

1月21日、塾。

1月22日、まいこと吉祥寺。

1月25日・・・・・・。

あたしにはその先がなかなか書けなかった。
君があたしのペン先をじっと見てるのがわかってたから。

1月25日、夜、塾。あたしはそれだけようやく書いた。

「そこさ・・」君が指差して突然しゃべり出した。
「オレの誕生日なんだけど?」

「へー、そうなんだ?」と、あたしはとぼけてみせた。

いきなりページをめくって2月。
2月14日、バレンタイン。

「おまえ、誰かにチョコあげんの?」
「べっつに?」
「義理チョコぐらいだったら、もらってやってもいいけど?」
「もったいないから買わない」
「ケチ」

中学2年の夏、君は思いっきり、人前であたしの気にしてること言って、
からかったよね?
なんなんだよ?!こいつ!!ってムカついてた。

でも中学3年になった春、図書室の前で、君とふざけてたヤツが、
「おまえの秘密、こいつに言っちゃおっかぁ?あのさー?」
「それだけはやめろ!!」って、あたしの顔をチラッと見ながら、君は言ったよね?

それからなんだ、やたら君が気になりだしたのは。

「怖いもんってなんかある?」あたしも唐突に、下を向いたまま君に向かって
しゃべり出した。

「なんだ?それ」
「怖いもんだよ」
「・・・オバケとか?高いとことか?」
「ふぅん・・・」
「じゃ、おまえの怖いもんてなんだよ?」
「あたしは・・・怖いもんなんてない」と、大ウソをついた。

オバケとか高いとことか怖いんじゃ、遊園地、全然ダメじゃん?
って、そんなの考えてどうすんだろ?あたし。

「おまえって相変わらず、顔まんまるいな?」
君は後ろ向きにすわって、下からのぞきこむようにあたしを見た。

「いちいちうるさいっ!!」
あたしは、ペンケースで君の頭をたたきまくった。ガードしようとする君の腕。

ふざけ合ってた男子グループが、一斉にこっちを見て言った。
「おまえら、もしかして付き合ってんの?」
「こいつら、付き合ってんだってー!!(笑)」
「よかったなぁ、おまえ!願い叶ったじゃん?(笑)」
あの時、図書室の前でふざけてたヤツが言った。

教室中に響き渡るひゅーひゅーの声。女子のヒソヒソ声と笑い声。

「そんなわけねーだろ?!誰がこいつと・・・!!」と、君が立ち上がって言えば
言うほど、クラスの中は湧き返る。

あたしは窓の外を見てることしかできなかった。

あたしは君に、「あたしの怖いもの」が伝えられるだろうか?
卒業式までに・・・。








勝手にBGM : aiko 「三国駅」&「二人」



勝手にすぺしゃるさんくす : 中学講座の櫻井さん