「僕とあたしの未来 17」



♪ピンポン♪
インターフォンが鳴った。
モニターには、どこか見慣れた人の姿が。富澤さん?

「アスラック生命の富澤でございます。本日はご挨拶にお伺いいたしました」
「あ、はい」

あたしはオートロックを開ける。

どうせピンポンが鳴るんだから、と、あたしはドアを開けて、富澤さんを待った。

「お久しぶりでございます。突然申し訳ありません。開けて待っていてくださって、
 恐縮です」
「いえ、どうぞ・・・」
「失礼いたします」

いつものようにきちんと靴をそろえ、上がる富澤さん。

「奥様、こちらの地域担当の節は、たいへんお世話になりました。
 本日はお礼方々やってまいりました」
「それだけのために?お電話でよかったのに」
「いえ、とんでもございません!!あれだけお世話になっておきながら、
 お電話だけなどとは、わたくしにはできません!!」

ずいぶん律儀なのね。(^_^;)

「やっぱりお紅茶でいいかしら?」
「奥様、おかまいなく・・・」

あたしはいつものように紅茶を淹れた。お茶菓子は・・・あそこのお店のマカロン、
冷蔵庫にまだあったわよね?

紅茶とお菓子をサーブすると、「恐れ入ります」と富澤さんは頭を下げた。

「それでは失礼して・・・いただきます」と紅茶のカップを手にして、
「うぅん、やっぱりいい香りですね」とご満悦な表情の富澤さん。
「こちらは・・・?」
「いつも買ってるところのマカロンよ」
「もしかして、あそこの洋菓子屋さんのマカロンですか??」
「あら、あなたご存知?」
「わたくし、一度伺ったことがございまして、きれいな色合いのマカロンに
 どれにしようかと迷ってしまいまして」
「そうよね、あたしもいつも迷うの」

マカロンを目の前にして、とてもうれしそう。よかった。
「いただきます♪」と食べる姿は、この人おぼっちゃまなのかしら?という
上品さを漂わせている。

ふたたび紅茶を一口飲んで、「申し訳ありません、おかわりをいただけますか?」
「はい、ポットにいっぱいありますからね」と、もう1杯、カップに紅茶をつぐ。

「先ほどわたくし、こちらに伺う前に、立ち食いそばを食べたばかりなのですが、
 やはりお菓子とお紅茶はまた別腹でございますね♪」
「あら、意外。富澤さんが立ち食いそばなんて・・・おそばが好きなの?」
「はい、どちらかと言うと、うどんよりそば派で・・・」
「おそばにはからだにいいものが含まれてますもんね。だからそういう体型をキープ
 できるんだ?」
「そういうわけでは・・・」と、恐縮気味に、富澤さんは頭をかいた。

「ところで、担当の棚田はいかがですか?何かご迷惑をおかけしていないでしょうか?」
「いえいえ、いつも親身になって相談に乗ってくださいますよ」
「さようでございますか。それをうかがって安心いたしました」

富澤さんは2杯めの紅茶を飲み干した。

「いつも長居してしまいまして申し訳ございません。今日はそろそろおいとまいたします」
「あら、いつもの宣伝はしなくていいの?」
「以前、一応ひととおり申し上げましたので・・・あ!」
「?」
「プレミアムグッズはお気に召していただけましたか?」
「はい!それはそれはもう!」
「CM撮影もございますから、ぜひお楽しみにしてくださいませ」
「はい。でも緊張するー!!」
「大丈夫でございますよ。撮影の際は、棚田もわたくしもお迎えにまいりますし、
 現場でもご一緒させていただきますので」
「そう・・・?」

きっとあたしは、富澤さんと棚田さんの陰に隠れて、隙間から覗き込むように見てる
だけだろう。
その場にいられるだけで、同じ空間に存在するってだけで、幸せな気持ちに包まれる
だろう。

「では、今後ともアスラック生命をよろしくお願いいたします」と、深々と頭を下げ、
富澤さんは帰って行った。

あ、そうだ、訊くの忘れたけど、富澤さんは影山メガネ買えたのかしら?
契約が取れたらどうのこうのって言ってたけど。
今度、棚田さんに訊いてみよう。
(別にそんなたずねるほどのことでも・・・?)って言う、富澤さんの声が
聴こえたような?聴こえなかったような?(^_^;)






勝手にすぺしゃるさんくす : サラリーマン・櫻井さん(^^ゞ