「僕とあたしの未来 25」



どうにもならないほど涙があふれて止まらなかった。
明日のパンもミルクも切れてる。せめてそれだけでも買いに行かなきゃ。
赤くなった目を少しでも隠したくて、メガネをかけてスッピンのまま、
あたしはドアを開けた。

昼間は春めいてきたけど、まだ肌寒い夜。
コンビニに向かうたった3分間、ちょっと気をゆるめると涙がこぼれそうで、
「大丈夫大丈夫」って言い聞かせながら、足早に歩いた。

ちょうど夕ご飯も終わるこんな時間、みんなあたたかい食卓で、テレビでも見ながら
ゆっくり過ごしてるんだろう。
お客さんはあたし以外ひとりもいない。

雑誌コーナーをチラ見する。ガイド誌の表紙には翔ちゃんが微笑んでる。
奥にあった生活誌の相葉ちゃんを見て、よし!と力をもらう。

パンとミルクを取って、レジに急いだ。

「いらっしゃいませ!」
ブルーのストライプがよく似合う店員さんが、元気よく挨拶した。

ピッとバーコードを読み取ろうとするけど、何度やっても読み取れない。
そのたび「あれ?あれれ?」と言ってる。
鼻も赤くていかにも泣きましたって顔のあたしなのに、思わずぷっと
吹きだしそうになった。

「えっと・・・ここ押して・と・・・あ、できた!すいません!!456円です」
「はい・・・」
あたしは460円を渡しながら、なんでもない顔をするのに必死だった。
「4円のお釣りでーす。ありがとうございましたぁ!!」
だめだ、もうガマンできない・・・。あたしはぷぷっと吹きだして「アハハ」と
笑った。

しまった!!笑っちゃった・・・。気まずい。(>_<)

「笑いましたね?」と、店員さんに指摘され、「すみません!!」とあわてて謝ると、
「いや、やっと笑ったな、って思って」
「え?」
想定外の言葉にあたしはちょっとびっくりした。

「お客さん、以前コンビニの前ですれ違いましたよね?」
「え、いつ?!」
「オレがまだここのバイトしてない高校生の頃。何年前だぁ??」
と、さらにびっくりする言葉を重ねてきた。

「なんでそんなこと覚えてるの??」
「なんでだろ?今日みたいに半分泣き顔だったからかなぁ?」

あたしいっつもそんなに泣き顔だったっけ?・・・そうだったかも・・・。

「オレ、調子はたいてい中の下なんすけど、その記憶だけはやけにはっきり
 してるんですよねぇ」
「そんなの覚えてなくていいです・・・」
「そう言われても〜覚えてるもんは覚えてるんですから」
「店員さんが高校生の頃って・・・あたしOLになったばっかりの頃かな」
「そうそう、OLのおねーさん、って感じでした」
「それで半泣き?(-_-;)」
「はい。すれ違いながら、どうしたんだろう?って、思わず振り返りましたよ。
 きっと深いふかーい事情があるんだろうなーって・・・」

思い出したように、まじめな顔つきでひとりうなずく店員さん。
けれど、すぐににこやかな顔に戻った。その笑顔に、心が穏やかになって
救われる気がした。

「オレ、この時間、たいていバイトしてますから、また遊びに来てくださいねぇ〜」
「遊びに来ちゃだめでしょ?買いに来てくださいって言わなきゃ(^_^;)」
「そうでした。(^^ゞありがとうございましたぁっ!!」

元気な声に見送られ、あたしはコンビニを出た。

あ。思い出した。今は店員さんの少年とすれ違ったこと。あたしもなんか気になって、
振り返ったんだった。
もう、とんでもなくすごい昔のことのような気がする・・・。
不思議だな。そんななんでもないヒトコマを、記憶を重ねて行くんだな。

もう一度コンビニの中を覗いてみたら、店員さんが指できつねみたいなカタチを作って、
こっちに向かって右手を振った。
もしかして、♪Yeah〜yeah〜yeah〜yeah〜yeah〜♪
そうだね、考え方ひとつで、一つだけのHappiness。

あたしもおんなじように手を振り返した。君とあたしの未来に幸あれ!!






勝手にBGM : 「Happiness」


勝手にすぺしゃるさんくす : ブルーのストライプのシャツ着てた相葉ちゃん(^_^)b