「僕とあたしの未来 26」



親方から暖簾分けしてもらったこの寿司屋。この地に店を構えてから10年余り。
ようやく俺にも弟子ができた。
ちょいと寝ぼけた顔をしてやがるが、飲み込みはそこそこいい、さとしって奴だ。

「まつおかさん、ただいま帰りました」
「バカヤローッ!!何度言やぁわかるんでぃ!?まつおか、じゃねぇ!親方だろがぁ?!」
「あ・・・親方・・・今帰りました・・・・・」
「で?今日の釣果は??」
「それが・・・さっぱりで・・・」
「ったくよー?何年釣りやってんだ?!うちのは築地の仕入れと同時に、釣れたてっ
 つーのが売りなんだからよー?!」
「・・・すいません・・・・・」

寝ぼけ顔のこいつは、すまなそうに頭をひょこひょこ下げている。

お、今日の一人目の客は・・・出勤前のホスト・ジュン・・・。今日も同伴かよ?

「親方、いつものお願いしま〜す」
「へい!」

カウンターからちょっと離れた壁際の席に座ったジュンとツレに、俺は威勢良く返事する。

「さとし、おまえ握れ」
「へ?オレがですか?」
「他に誰がいんだよ?」
「親方?(^^)」
「バッカヤロー!そんなだからいつまでたっても弟子のまんまなんだよ?!(-_-メ)」
「はい・・・握ります・・・」

おぼつかない手つきで、シャリを手に取り、ネタを乗せ、きゅっと握る。
ネタを乗せるまでの時間が・・・やたら長い。(=_=)

「おい、握るまでにネタが腐っちまうぞ?!」
「すいません・・・」
「鮮度が命なんだからよ〜?わかってんのか〜?!」
「へい。これでも一応寿司職人の端くれっすから」
「おう!わかってんならいい。握ったら、ジュンとツレんとこ持ってけ」
「へい」

ジュンは親しげにツレと話し込んでいる。ヤツはいつ見ても濃いなー。(^_^;)

「へい、おまち」
さとしがジュンのテーブルに、いつものやつを置いた。
「どうも」
ジュンは軽く答えた。

長年カウンター越しに見てきて、ヤツほどホスト向きな奴はいねぇ、としみじみ思う。

と!次の客がやってきた。見るからにサラリーマン3人組のランチ、ってとこだな。

「すみませーん、ランチお願いしまーす!」
3人組の中で、ライトブルーのYシャツに紺と赤の斜めストライプのネクタイが似合う、
爽やかな奴が言った。
「いやぁーテンション上がるわー♪」
カウンターに腰をすえた3人の中で、いちばん背のデカい、のほほんとした奴が、
やたらうれしそうに言った。
「ここ、調べたのサクちゃんでしょ?あなた、よっぽど好きなんだねぇ?寿司。
 いくらヘルシーでも、そんなに貝ばっか食べちゃうと、ぷっくりしちゃうよ?」
温厚そうなのにけっこう毒入りコメントをしそうな奴が、ツッコミを入れた。

「でも♪どうしてもホタテ食べたくてさ〜☆」
「回転寿司じゃなくて、こういうカウンターで食べるの、こんなの?」
「初めて・・・。楽しみだぁ!!」
「よかったねぇ、サクちゃん。食べログに載ってて」

食べログー?!?!んなの載せた覚えねーぞ?!俺はさとしを睨んだ。
俺の視線に「は?」と気づいたさとしは、「あ、オレ載せときました!」と、テヘッと
頭を掻いた。
「テヘッとかやってんじゃねーよ?!このバカーッ!!俺がそういうの嫌いなのよく
 わかってんだろがぁ?!」
さとしの上に雷を落とした瞬間、カウンターの3人がビクッとしてこっちを見た。

「親方ー、相変わらずっすねー?」
ジュンがニヤッと笑いながら言った。

「ね?ね?ね?あのヒト、顔、超濃くね?」
背のデカいヤツが、盗み見しながら言った。
「そう言われてみれば・・・」
ストライプネクタイ爽やか男が、腕組みしながら言った。
「確かにー。眉ははっきりしてんね!目ヂカラもかなりあるよ?」
毒入りツッコミ男が言った。

「なんの仕事してるんだろ?」
「どう見てもホストじゃね?」
「だよねー・・・」
サラリーマン3人組がジュンのことをひそひそ話していると、ジュンが「ヘークションッ!!」
とクシャミをした。

「あれぇ?花粉症かなぁ?」と言いながら、ポケットから潤いティシューを取り出すジュン。
食べ終わったジュンは、「親方、ごちそーさまでしたー☆彡ツケといてくださいね」と、
ツレと一緒に帰って行った。
「ありがとうございましたー!!」と、俺はこれまた威勢のいい声で送り出す。

「ほら、ランチ、カウンターのお三方に持ってけ」
「へい!」
さとしはサラリーマン3人組に運んで行った。

「へい、おまち」
さとしがカウンターにランチを置いた。
「ありがとうございまーす!じゃ、やっぱりホタテから・・・」
ストライプネクタイ爽やか男は、ホタテをほおばり、「う〜ん絶妙♪」と、幸せいっぱいの顔。

うちのネタは鮮度が違う。ネタには自信がある!いや、腕もだけどな!!ついでに顔もよ☆彡(*^_^*)

「親方は、このお店何年やってるんですか?」
ストライプネクタイ爽やか男は、まるでインタビュアーのように訊いてきた。
「かれこれ10年」
俺は腕組みしながら、ちょいと偉そうに答えた。
「以前は、どこかのお店で寿司職人をされてたんですか?」
ストライプネクタイ爽やかインタビュアーは、さらに質問してきた。
「おぅ!修行してたさ!親方から腕を見込まれて、暖簾分けしてもらったんだけどな」
「さすがですね〜」
ストライプネクタイ爽やかインタビュアーは、褒め上手でもあるらしい。

「あ、すみません、親方」
「どした?さとし」
「飼ってる魚にエサやり忘れたんで、帰ります」
「ハァ?!」
と、俺が訊き返す間もなく、さとしはさっさと帰って行った。

おい・・・・・。ツッコミを入れる気力さえ出ねぇよ。(=_=)

「変わったお弟子さんだなー」
「なんとなくとぼけてるし・・・」
「あれじゃない?きっと調子が中の下だったんだよ!」
「それはおめーだろ?!」
中の下と発言した、背のデカいのほほん男が、爽やか男と毒舌ツッコミ男に言われていた。

「まぁな、ちょいと変わってるが、芸術家肌で、根は素直でいい奴だからよ」
俺は、さとしのいないとこでヤツを褒めといてやった。d(^_^)

小さいけどよ、こうやって来てくれるお客さんあってのこの店、さとしに暖簾分けすんのは、
あと何年先になるんだかなぁ?








勝手にすぺしゃるさんくす : 松岡さま。