「僕とあたしの未来 34」



あたしは鈍足だ。自慢にもなんにもならないが、小学校6年間、ビリ以外取ったことがない。
なのに中学入学の部活紹介の時、陸上部に入ろうと決めてしまった。
なぜならそこにみむらセンパイがいたから。あまりに動機が不純すぎる。(-_-;)

今年もGW明けに体育大会がある。部活対抗リレーもあるし、その練習も含めて、
春休み中の部活からすでに練習は始まってる。

気持ちも足取りも重く、学校までの道を歩いていた。

「おまえ、相変わらず覇気がねーな」

振り返ると、みむらセンパイがあたしの後ろからやってきて言った。

「なんで陸上やってんの?」っていうセンパイの問いかけに、
「センパイにあこがれて・・・」なんて、バカ丸出しな答えは返せない。
「陸上、好きなんだろ?」
「は、はい・・・」
「だったらあきらめずに頑張れよ?」
「はい・・・」

センパイと並んで歩いてるだけで目立つのに、会話を交わしてるなんて、
部活で登校する子たちの注目の的だ。

グラウンドではもう、自主トレしてる部員たちが何人もいる。
その中を花道のように歩いてくセンパイと、「なんなのよ?あんた」的な
視線で見られるあたし。


部活対抗リレーは男女混合で行われる。その選抜大会が間近になってきた。
みむらセンパイは花形だから、もちろん選ばれるに決まってるのだけど、
問題はその前後。
センパイにバトンを渡す&バトンをもらうというポジションをめぐって、女子の間では
熾烈な戦いが繰り広げられるのだ。


そして今日も、練習で顧問の先生にボロクソ言われた・・・。
あたしなんのために走ってるんだろう?

みむらセンパイがいるから・・・。

そんな不純な動機で入部したんだもの、陸上なんて向いてるわけないんだよね。


みんなが練習を終えて帰って行っても、あたしはグラウンドのはしっこに座り込んだまま、
立ち上がれずにいた。

「みむら、まだ帰んないの?」
「あぁ、もうちょっとやってくから」

センパイが一生懸命走りこんでる姿を、あたしはしばらくの間、ぼーっと見ていた。
花形は最初から花形なんかじゃない、絶対に秘められた陰の努力がある。
それを目の当たりにした気がした。いつの間にか涙がこぼれていた。

水飲み場で顔を洗ってたら、みむらセンパイがやってきて言った。

「おまえさぁ、本気で走ったことある?」
「え・・・」
「どうせあたしはって、いっつもあきらめてんだろ?」
「・・・・・・・・」
「せっかくたくましいししゃも足持ってんのにな。ハハハハ!!」
「センパイ・・・(-_-メ)」
「とにかく、たまには本気出してみろよ。今度の選抜大会でいいタイム出したら」
「え??」
「ま、頑張れよ。じゃ」

みむらセンパイはもう一周だけトラックを走ってから、帰って行った。


選抜大会当日。
隣でスタンバイしてた女子が、「なんであんたがここにいんの?」って
言わんばかりに、あたしを見て鼻で笑った。
どうせあたしはビリだから楽勝って思われてる。

「どうせあたしはって、いっつもあきらめてんだろ?たまには本気出してみろよ」

こないだみむらセンパイに言われた言葉を思い出した。

みむらセンパイに言い当てられて悔しかったのと同時に、ものすごく悲しかった。
嫌だ、センパイにそんなふうに思われっぱなしじゃ嫌だ!

負けたくない、その想いがあたしに火を点けた。

パーンとピストル音が鳴ったと同時に、あたしは思いっきり走った。
両隣の女子を抜き去って、前を走る女の子の斜め後ろにくっついたまま
ゴールした。

「うっそっ?!」「なんで?なんであんたが足速いのよ?!」
あたしに抜かれた両脇の女子が、かわるがわる言った。

「さすがししゃも足、やればできんじゃん」
「みむらセンパイ」
「部活対抗リレー、推薦しとくよ」
「え、そんなムリです」
「じゃ、特訓する?」
「センパイ・・・」

あたしは周囲の女子の冷たい視線を一斉に浴びていた。
そんなのをまったく気にする様子もなく、みむらセンパイは「行くぞ」と走り出した。


部活が終わった後、あたしは自主トレを始めた。ちょっと離れたとこには、顧問の先生
よりも怖いかもしれない、みむらセンパイがいる。

スタート地点にいるあたし。その50メートル先にセンパイが立って、あたしのバトンを待ってる。
こころの中で「おりゃぁー!!」と叫んで、あたしは地面を蹴って走った。

あたしの方を振り返りつつ、右手を差し出し、あたしからのバトンをしっかり
受け取ったセンパイ。

「よぉっし!今日もなかなかのタイム出たな」
「そういえばセンパイ・・・選抜大会でいいタイム出したら・・・って言ってましたよね?
 それって・・・?」
「あぁ、あれ?あれは・・・」
「なんなんですか?」
「こないだまで、いや、今さっきまで離れてた距離は50メートルだけどさ、
 もうちょっと距離縮めたいな、と思って・・・」
「え、それはどういう・・・??」
「ま、部活対抗リレー頑張ろうってことで!さ、もうちょい走るぞ!!」
「センパイ、なんか答えてもらってない気がするんですけど?」
「いいから走れぇー!!」


みむらセンパイとあたしは、青く薄暗くなり始めたグラウンドのトラックを走り続けた。







勝手にすぺしゃるさんくす : 「やまたろ」の御村様。


勝手にBGM : 「Happiness」