「僕とあたしの未来 41」



瞳でいつもあの子を追いながら、君はあたしの横で「ハァ」とため息をついた。

「自分の気持ち伝えればいいのに」あたしはさらっと言ってのけた。
「それができてたら苦労してない」君は重苦しく答えた。
「自分に自信ないわけないでしょ?」
「言い出せない雰囲気、あの子が醸し出してるの、わかるだろ?」

あたしは君のただのトモダチ。それ以上でもそれ以下でもない、ならない。

階段教室のいちばん上のはしっこ。見えてないようで案外見えてるもんなんだ。
「はい、そこ!」と教授に指をさされた。(>_<)

でもそんな時君は、さっと立ち上がり、教授の質問にさらさら答えてしまう。
ついでに質問を返してしまったりして、さっきまでぐだぐだ言ってた君と、
同一人物だとはとても思えない。


チャイムが鳴って、みなざわざわと階段を下りてゆく。
君とあたしは、すわったまままだしゃべってる。

「教授に対する時と同じくらい、あの子にも強気で行けばいいのに」
「だな・・・ハハハハ」

教室の対角線上にいる女の子たちの視線を感じる。
なんとなく言ってることはわかる。

『あの子、あの人の彼女かなぁ?』
『でしょ?』
『だよね、いつも一緒にいるもんね』
『やっぱりなんかショック・・・』
『めちゃくちゃタイプだもんねぇ』
『行こ』
『元気出せぇ〜!』


ほら、誤解されてるよ?なんて、君にわざわざ伝えたりしないけど。
あたしは君の本当の気持ちを隠す盾のようなものだ。

「そういえばさ、訊いたことなかったけど、おまえ好きなやついるの?」
「・・・・・」
「そうか、いるんだ」
「・・・・・」
「そっちはどうなの?うまく行ってんの?」
「・・・・・」
「黙秘、ですか?」
「なんで君にいちいち報告しなきゃいけないわけ?」
「あぁ、ごめん、訊いちゃいけなかったってことね」
「そのくらいあの子にも向かっていけば?」
「・・・できねぇ・・・」
「ばっかじゃない?」
「ヒトのこと言えねーだろ?!」
「なんにもわかってないくせに!!」

あたしは立ち上がった。

「あの子呼んでくる!」
「なんで?!」
「君のうだうだにはもううんざりなの!!早く言っちゃいなさいよ!!」
「ったく他人事だと思って」
「聞かされるあたしの身にもなってよ?!」
「・・・え・・・?」

思わず口をついて出てしまった、あたしの本心。

「・・・それどういう意味・・・?」

君の言葉にはなんにも返さず、振り返りもしないで、あたしは階段教室を飛び出した。

涙でにじんで前が見えない・・・。なんで口走っちゃったんだろう?
長い間、ずっとこころの奥にしまってきたのに・・・。



一週間後。また同じ階段教室。君に顔を合わせづらいから、あたしはいちばんあとから
そっと教室に入ろうとした。

すると、ドアの横に立ってた君に腕をつかまれて、そのまま廊下を走らされた。
中庭を通って、購買を通り過ぎ、グラウンドのはしっこまで腕を離してくれなかった。

「・・なん・・なの・・・・・?」
「・・・こないだの・・答え・・・まだきいてな・・い・・・」
「・・きく必要・・・ないでしょ・・・?」
「・・・ある・・・」

グラウンドに腰を下ろし、呼吸が元に戻るまで、ふたりでなんにも言わずにいた。

「一週間長かった」
「・・・・・」
「ケータイは直留守だし、避けられてるのはわかってた。いつもいそうなとこに
 全然いないし」
「・・・・・」
「あそこでしか捕獲できないと思ったから」
「捕獲って、あたしは動物か?!」

思わず君の方を向いたら、目が合ってしまった。
こんな距離、今までいくらでもあったはずなのに、君がいつもと違う目で
あたしを見てた。
だからあたしはあわてて視線をそらした。

なのに君は、あたしの手のひらを自分の心臓に当てながら、
「この心拍数、自分でも説明できない」って言った。
伝わってくる体温と、こころなしか速い鼓動。
あたしは触れていた手をそっと離した。


「あの子に気持ち伝えたよ」
「えっ、いつの間に?」
「おまえが逃亡中に」
「逃亡って・・・(=_=)」
「あっさりフラれた。だってあなたの彼女ってあの子でしょ?って」
「彼女・・・」

君があの子に言われた言葉、全部聞いたら倒れそうになった。


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「いつもあなたの隣にいるのは誰?あの子でしょ?あの子がいつも何してるか
 知ってる?『トモダチがこれ好きだから、ちょびっとおまけして盛ってくれる?』って、
 食堂のおばちゃんに頼んだり、『トモダチが食べたがってたから』って、
 売り切れ必至のスイーツ、頑張って並んで買ってたの、何度も見かけてる。
 そこまでするのって、誰がどう見たって、あなたのこと大好きだから以外のなにもの
 でもないでしょ?全然気づいてあげてないなんて、あなたって鈍感すぎじゃない?!」

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「おまえあちこちで目撃されてたぞ?!オレあの子に告白どころか説教されたよ」
「ごめん・・・」
「ごめんじゃなくて・・・オレのためにそんなに必死にならなくたってよかったのに」
「いいんだよ、あたしがしたくてしたことなんだから」
「おまえの前で、うだうだ好きな子の話なんかして・・・オレなんか最低じゃん」
「そんなことないよ。君の力になれたらそれだけでうれしいんだから」
「おまえ、とことんバカだな」
「しょーがないじゃん、君のことが好きなんだから」
「やっとその言葉聞けた・・・オレの心拍数上昇の理由もわかったよ」


あたしは君のただのトモダチ。それ以上でもそれ以下でもない、ならない。はずだった。
君とあたしの間にあった壁は、どんどん低く薄くなって、今消えようとしてる。



チャイムが鳴った。

「カンペキさぼっちゃったな、講義」
「どーすんの?あの教授のレポめんどくさいのに」
「まぁなんとかなるだろ」
「そりゃー、君はなんとかなるだろうけど・・・」
「大丈夫だって。オレが愛情こめて指導する」
「ホント?お願いします〜!(>人<)(え?愛情こめて??)」


講義が終わって出てきた女の子たちが、またこっちを見て何か言ってる。

『今日はあんなとこでイチャこいてる!』
『あーあ、あたしも彼氏ほしいなぁ』
『もうすぐ学祭があるから、探すのには絶好のチャンスだよ!』
『見てると精神衛生上よくないから行こ!明日だけ見るのよ!!』


心拍数が上がって、頬が紅潮する。自然とふたりの距離が近づいて
できあがったひとつの影。

日差しはもう梅雨を飛び越えて、夏のようにじりじり暑い。







勝手にすぺしゃるさんくす : 一橋大学様。キュートな櫻井様。
                  「ハチクロ」の櫻井様をイメージして書きました。
                  あくまでもイメージだけですので。(^_^;)


勝手にBGM : aiko 「Kiss Hug」