「僕とあたしの未来 50」



アスファルトから立ちのぼる熱気で、めまいを起こしそうになる。
今日も体温並みの暑さだ。

家のすべての窓を開け放ち、扇風機を回し、庭先に水撒きをして、
どうにかしのいでいたけど、午後になってどうにもならなくなった。


「あちぃー!!」と言いながら、まさきが帰ってきた。
「あれ?部活、夕方までじゃなかったの?」とあたしが訊くと、
「具合悪くなった奴がいて、今日は途中で中止になった」
「そう」
「てか、ねーちゃん、エアコンつけてないの?!信じらんねー!!
 あのね、節電するのはいいんだけど、熱中症になったら親も子もないわけ、
 わかる?」
「まさき・・・それを言うなら、親も子もない、じゃなくて、元も子もない、
 でしょ?」
「・・・あーそー、そーゆーこと言っちゃう?弟くんがちょこっと間違えたとこを
 そういう言い方しちゃう?じゃあねぇ、どーしよっかなー、言うのやめよっかなー」

まさきはうちわをパタパタしてたけど、業を煮やしてエアコンのリモコンを押した。

「もう!なによ?」
「しょーちゃんがね」
「なになに?!」
「今月はほら、ロンドンの友達のとこ行っちゃうだろ?」
「うん」
「来月はみんなでどっか行きたいね、って言ってたよ」
「うん、言ってたの知ってるよ?電話でも話したし」
「じゃ、流れ星が見えるとこがいいなって言ってたのは?」
「それは聞いてない・・・」
「そーなんだ、ねーちゃんには言ってないんだ?」
「なによー、もったいぶっちゃって!」
「しょーちゃんってば、ねーちゃんにサプライズプレゼントでもあげちゃう
 つもりなんじゃぁないのぉ〜?(*^。^*)」
「え・・・」

あたしは黙った。

プレゼントならもうたくさんもらった。しょーちゃんの存在じたいが、
あたしにはもうじゅうぶんプレゼントだ。
それでも、何かを星に願うとしたら・・・・・あたしは何を願うんだろう?

「ねーちゃーん、冷蔵庫のアイス食っていい?」
「食べれば?」
「あと1個しかないよー?しかも☆型のアイスだけど?」
「ちょっと、それ取っといたやつ!!だめ、食べるなー!!」

まさきと1個の☆型アイスを取り合った。うるわしき兄弟愛はいずこ・・・。


その夜、あたしは夢を見た。
しょーちゃんが出てきて、あたしにこう言った。

「君はさ、そんなに僕のこと好きで、どうしようってわけ?」
「どうしようって・・・・・。しょーちゃんどうしたの?」
「・・・なんてね。ちょっと意地悪言ってみた」
「なんだ・・・びっくりするじゃない」
「将来のことなんて、そんなの誰にもわかんないよ。もしかしたら僕が
 君にフラれてしまうかもしれないし」
「そんなことあるわけないでしょ?」
「そっか」

変な夢だった。目が覚めた時、嫌な汗をかいてた。
しょーちゃんの感じがいつもと違ってたのが気になって、あたしは思わず
電話してしまった。

「もしもし・・・」
「もしもし・・・どした?こんな時間に」
「ごめん、起こしちゃった?」
「キャリーバッグに荷物つめてたとこだから、全然大丈夫だよ。なぁに?」
「なんか変な夢見たの。しょーちゃんの言うこととかなんかいつもと違って
 たから、気になっちゃって・・・」
「僕、なんか変なこと言ってた?(^_^;)」
「しょーちゃん・・・遠くに行っちゃったりしないよね?」
「それはもちろん物理的な距離じゃなくて、精神的な意味で、だよね?」
「うん」
「遠くに行く予定は毛頭ないけど?」
「・・・だよね・・・ごめん、変なこと言って・・・」
「つーか、僕、なんて言ってたの?気になるー!!(>_<)」
「だいじょぶだいじょぶ、なんでもないから。(^_^;)それより、流れ星が
 見えるとこがいいんだって?」
「まさきぃ〜!(-_-;)さすがまさき、きっちり報告してる(=_=)」
「お願いごとするの?」
「まぁできれば・・・ね。君だったら何をお願いする?」
「あたしは・・・・・」

これからのこととかが、頭の中をめぐった。でも・・・

「あたしは、おばあちゃんになってもしょーちゃんのこと好きでいたい!」
顔を上げて、まっすぐしょーちゃんの目を見てるつもりで言った。

「壮大なスケールの愛につつまれてるなぁ、僕(*^_^*)
 てか、願いごとなのに、もう聞いちゃったし(^^ゞ」
しょーちゃんは照れくさそうだった。

「あたし今までずっと、女なんてめんどくさいなって思ってたの。
 でもしょーちゃんに出逢って、その気持ち変わったんだ。
 それに、もしも生まれ変われるなら、また女がいいって思うようになった。
 だって、絶対にしょーちゃんとまためぐり合って、好きになりたいもん。
 もしもしょーちゃんが女に生まれ変わってたとしたら、絶対友達になるから!」

「願いごとのスケールも、オリンピック開会式並みにデカいな(^_^;)」
しょーちゃんの笑う顔が、見えるような気がした。

「荷物作業中にごめんね。長々とお邪魔しちゃった。そろそろ切るね。
 おやすみなさい・・・」
「おやすみ。むこうに着いたら、また連絡するよ」
「うん♪」


ふたりで静かに携帯を切った。






勝手にすぺしゃるさんくす : 櫻井さま☆ロンドン出張お疲れさまですm(_ _)m



勝手にBGM : 「証」