「僕とあたしの未来 58」



コンビニでふと目にとまり、思わず買ってしまった雑誌。今回の特集は『片想い』。
あたしは今でも片想いの呪縛から自分を解き放てずにいる。
買って読んでみても、こうしてみたら的内容は、重々承知のことばかりで、
それができてりゃ長年想いつづけてないっつーの。
でも、あらためて注意すべき点が確認できただけでもよしとするか。
それに・・・表紙の男のコがどことなく似てるんだよね、片想いの遠いあなたに。

あの日あなたは桜の木の下、ボタンをもらいたい女のコたちに囲まれていた。
あたしは少し離れたところからあなたを見ていた。
その他大勢になるのが嫌で。どうしても他のコと一緒になりたくなくて。

女のコの一団が去り、近づいて行こうとしたあたしに、あなたはなぜか気づいて、
自分から歩み寄ってくれた。

「君ももしかしてボタン?」
「・・・はい・・・」
「ごめん・・・ボタン全部取られた」
「・・・ですよね?」
「ボタンないから・・・よかったら・・・」

あなたは、ちょっと曲がったネクタイを緩めて、「これでいい?」とあたしに差し出した。

「先輩、いいんですか?」
「制服のネクタイなんて、もうすることないし」

開いたあたしの手の平に触れた、あなたの指先。

「先輩・・あの・・・これからも頑張ってください」
「ありがとう。じゃ・・・」

軽く手を上げてから、踵を返し、あなたは走って行った。

わずかに交わした言葉、ほんの一瞬触れた指先が、今でも忘れられない。
なんて他の誰にも言えない。

もう二度と逢えない。きれいなまま、記憶の中にしまっておこう。
そう思ってたのに・・・。


神の思し召しか、20年に1度の奇跡か?コンビニの横で、あなたによく似た人を
見てしまった。
しかも小さな女の子の手を引いてた。

まさか・・・あなたじゃないよね?

あたしの視線に気づいたのか、あの日のあなたのように、その人はあたしに近づいてきた。

「すみません、このすぐ近くに公園あります?」
「はぃ・・・?」
「コンビニのトイレ寄ろうと思ったら、ちょうど使用中で・・・」
「おしっこー!!」
「あわわわ、待て!!」
「コンビニのトイレ待ってた方が早いかもしれませんよ?公園までだとちょっと距離あるし」
「そうですか・・・」
「はーやーくー!!」
「だから待てって!!」

あたしは思わずコンビニに入り、トイレのドアを叩いた。

「すいません、子供がトイレ入りたいんで、なるべく急いでもらえます?!」

げっ、あたし何してんだ?アラサー過ぎてアラフォーになると、こういうことも
平気でできてしまうのか?!(=_=;)
女の子を抱っこして、あたしの後をついて入ってきたその人が、ちょっとびっくり顔してた
ような気がする・・・。

トイレから出てきたのは、おばあちゃんだった。

「あらー、ごめんなさいねぇ、お譲ちゃんお待たせしちゃったわね〜」と、
女の子の頭をなでた。

「ご家族でお花見?いいわねぇ〜」
何を勘違いしてんだ?おばあちゃん!!

「違います!!」と否定したあたしの横を、「すみません」と、その人は女の子を
抱っこしたまま、すばやくすり抜けた。

「はー、間に合った・・・・・。ご親切にありがとうございました」
その人はあたしに向かって頭を下げた。

「いえ・・・」
と一言だけ返し、しゃがんで「パパ、やさしいね」と女の子に話しかけた。

「ちがうよ!おじちゃんだよ!!」
「え?」
「この子、姪っ子なんです。残念ながら僕はまだ結婚にご縁がなくて・・・」
「そうなんですか・・・」

あたしはなんだか恥ずかしくなってうつむいた。

「あ・・・わたくし・・・・こういう者です」
その人はかばんの中を探った後、名刺を1枚取り出し、あたしに差し出した。

あの時のあなたを思い出した。この手・・・似てる。

受け取った名刺の名前を見た。・・・まさか・・・こんなことってあるの?
やっぱりあなただった。
あなたはあたしのことなんて覚えてないよね?

「先輩、ネクタイ・・・」
あたしってば今、何を口走った?!

「ネクタイ?・・・あぁ、僕ネクタイ結ぶの苦手なんですよ。やっぱり曲がってます?」
「いえ・・・なんでもないです」
「・・え?先輩って・・・?後輩?ってこと??」

反応が遅すぎる・・・。(-_-;)っていうか、今頃気づかれても・・・。

「いつの時の後輩??」
「やっぱり覚えてないですよね」
「・・え?ネクタイって・・・あ!!もしかして卒業式の時の?!」

やっぱり反応が遅すぎる・・・。(T_T)っていうか、今頃思い出さなくても・・・。

「その節はどうも・・・」と、あなたは頭をぴょこんと下げた。
「こちらこそどうも・・・」と、あたしも頭を下げた。

あの時のネクタイ、まだ大切にしまってあるなんて、とても言えない。

「ネクタイ、まだ持ってる?」って・・・訊くか?!
「も、持ってます・・・」
「持ってるんだ・・・そういうの取っておくのって男だけかと思ってた」

・・・高校時代のあなたのクールさ、どこかに忘れてきちゃったの??

「おじちゃ〜ん!!もうかえろーよーーーーーっ!!」
「あ、ごめんごめん・・・じゃ・・・」

あ、その「じゃ」の言い方、そのまんまだ・・・。

「あのー、連絡先とりあえず名刺に・・・メアド書いてあるから!!」

名刺のメアドって業務用じゃ・・・?(-_-;)

左手で女の子の手を引き、軽く右手を上げてから、やっぱりあなたは走って行った。


神の思し召しか、20年に1度の奇跡か?

好きと言えないまま見送ってしまったあの日のあたしが、やっと笑った気がした。

新しいネクタイをあなたに結んであげる日、あたしにもやって来る・・・かな?






なんとなく勝手にBGM : 「Still・・・」

勝手にすぺしゃるさんくす : うぁぁぁっ櫻井さまーっ!!(ToT)←なんだこれ(-_-;)