「僕とあたしの未来 59」



「場所と運動量に・・・・・関数・・・・・・・微分・・・という・・概念・・・・・」

教授の声がとぎれとぎれに聴こえる。
子守唄のようで、あたしは夢見心地になる。

「実に面白い」
ガリレオの福山のマネみたいな声に、ハッと我に返ったあたし。

声の方向=あたしの横を見ると、吉本がいた。

「半目キープのオマエの顔、超笑える〜!!(=▽=)」
「ヒトの顔で笑うな!」
「あまりにキモチよくて逝きかけてた?正直、あの顔で逝かれたら退くぜ?」
「ちょっとあんた!いくいくって連発すんのやめてくれる?!」

教室内の一同が振り返った。教授の眼鏡の奥の目は、軽蔑に満ちていた。

「でけぇ声でその発言・・・ありえねー」

あいつから受けたこの屈辱、忘れるもんか。

何かにつけてつっかかってきたあいつ。

「吉本とあんた、超仲いいよね」って、周りのコには言われたけど、
「どこが?!」って、あたしはいつも返してた。

まったくもうっ・・・大学生にもなってまるで中学生みたい。


そんな吉本を、しばらくキャンパス内で見かけないうちに、あっという間に
桜が咲き、先輩たちは卒業して行った。

バイトにでも明け暮れてるんだろうか?


桜の花もほとんど散って、ところどころ葉桜になってしまった。
アパートの通路側は、桜の並木に面していて、ちょっと干からびた桜の花びらが
通路のはしっこに積もっている。

あいつ、花見したのかなぁ?

なんだか最近あたし、あいつのことばっかり口にしてる・・・?
きっと気のせいだ。
犬猿の仲でも、ケンカする相手がいないと張り合いがない、それだけだ。


すると、携帯がぶーぶーって鳴った。メールかと思ったけど、ぶーぶー鳴り続けるので
開いて見てみたら、吉本からだった。

「もしもし?」
「オマエ早く出ろよ!待たせすぎだよ」
「誰も電話してくれなんて頼んでないし!なに、なんか用?」
「あ、オマエにさ、一応報告しておこうと思って」
「報告?何を?」

報告という言葉を聞いて、なぜだかあたしはドキッとした。

「オレ、大学やめたから」
「え?!なんで?!?!」
「やめるのにそんなに理由要る?」
「ふつー大きな理由がなきゃやめないでしょーが?!」
「世界一周してこようと思ってさ」
「はぁ?!」

変わり者と言われて久しい吉本だったけど、まさかそこまでとは・・・。

「そーゆーことだから。じゃあね!」
「じゃあね、って・・・・・今どこにいるの?」
「成田だけど?」
「あんた本気で行くつもり?!?」
「そーだけど??」
「ばっかじゃないの?!」
「出た!オマエの『ばっかじゃないの?!』(笑)」
「あんたがそこまでバカだとは思わなかったよ」
「よかった」
「よかった?!何がだよ!?!」
「オマエに声聞かせられて・・・」
「はぁっ?!どこまでバカなんだ?!」
「ウソ、逆。オマエの声聞けてよかったよ」
「・・・え」
「行く前に、オマエの声だけでも聞けてよかった」

なんなんだ?それ・・・。あたしは頭が混乱した。

「いつかオマエも世界一周連れて行ってやるよ」
「・・・一生帰ってくんな!!」

そう言いながら、わけのわからない涙があふれ出した。
ガマンしてたけど、涙は声にならない声に変わり、嗚咽となった。

「・・え、オマエまさか泣いてんの??」
「泣いてないっっく・・・!!」
「・・・あの・・・泣いてるとこ申し上げにくいんですが・・・・・
 エイプリルフールです・・・」
「・・・・・・くぅぅ・・・・よ・・しも・・・とぉぉぉっ!!こっち来い!!
 ぶっ飛ばしてやる!!」
「後ろにおりますが・・・」

振り返ったら、吉本が若干申し訳なさそうな顔して立っていた。

「なんであんたはそうなのよ?!ヒトのことバカにして!!あたしの涙返せ!!」
吉本の胸ぐらをつかんでやろうと思った。

「いつか世界一周行きたいのはホントだよ。できるならオマエと」
「どこまでウソつきなんだよ!!」
「だから大学やめんのはウソだけど、世界一周したいのはホントだってば!!」
「ホント?」
「オマエと」
「ばっかじゃないの?!」
「オレもそう思う」

胸ぐらをつかんでやるつもりが、吉本の腕に包まれていた。

『やぁだ〜、やっぱりあのコ、吉本とデキてる〜』

どこからか誰かの声がした。

「誤解でーすっ!!!」と声を限りに叫ぼうとしたけど、吉本に口を押さえられた。
唇を唇で・・・・・。

神様が歓迎してくれてるのか、吉本とあたしの上に、少しだけ残ってた桜の花びらが、
ライスシャワーのごとく舞い落ちてきた。






なんとなく勝手にBGM : 「サクラ咲ケ」

勝手にすぺしゃるさんくす : 3月29日の櫻井様・・・(ToT)