「僕とあたしの未来 64 〜さくら〜」



友達が購買に寄ってる間、オレはひとりベンチにすわって、散り行く桜を眺めていた。

どうして日本人はこんなに桜を愛するのだろう?
咲いている時間が短いからだろうか?それとも散り際の美しさが、日本人の魂に
リンクするからだろうか?

このベンチの裏にも、かなり大きい桜の木があるんだよな、と振り返ったら、
女の子がひとりで何かを探している様子が目に入った。コンタクトでも落としたのかな?

「探すの手伝いましょうか?」
オレが声をかけると、
「すみません・・・ありがとうございます」
と、か細い声で女の子は答え、微笑んだ。

透き通るような白い肌に、ほんのり、まさに桜色のような頬。

「何を探してるんですか?」
「・・・ピアスなんです。桜の花の形をした」
そう言いながら、右耳を見せる君。

「あたし、左耳をさわるクセがあって、ついさわってたら、ゆるんじゃったみたいで、
 片方だけ落としちゃったんです」
「桜の花のピアスね?・・・桜の花・・ピアス・・・」

君とオレは、しばらくの間、その辺りを這いずり回るようにして探した。
桜・・・ピアス・・・ピアス・・・。

するとすぐ近くに、キラッと光るものを見つけた。
手に取ると、確かに桜の花のピアス。こんなに近くにあったのに、さっきも見たはずなのに、
なぜ気づかなかったんだろう?

「これ・・・かな?」
「はい!ありがとうございます!!とっても大切なものだったから・・・見つけてくださって
 ありがとうございました!!m(_ _)m」
「とっても大切なものって、カレシからのプレゼント?」

問いかけると、君は少し押し黙ってから、そっと「もっともっと大切なものです」と答えた。
そっか・・・もしかしたら両親からプレゼントされた大切なものなのかもしれない。

「お礼に何か・・・」
「いいよ。別に大したことしてないし(^_^;)」
「こんなものしかないんですけど・・・」
と、君はオレの手を取った。

なに??まさか手握っちゃうとか?!(@_@;)

「手を開いてください」
「こう?」

君の手からオレの手の平へ、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちた。

「え?なんで?あ、マジック??」
「ふふ」
君は微笑むだけだった。

「ありがとう」と、オレは君からもらった花びらを、そっとジャケットのポケットにしまった。

「君、何年?」
「あ・・あたし・・・・・1年です」
「そっか。あんまり見かけたことないなぁって思ったから」
「キャンパス内の女子全員、把握してるんですか?(笑)」
「いや、そういうことじゃなくて!(^_^;)君のような美少女なら、絶対学祭のミスコンで
 優勝してるだろうな、って思って」
「あたし、ああいうの苦手で・・・人前苦手なんです」
「名前は・・・?」
「・・・・・さくらです」
「さくらさん?苗字が?だったらまるちゃんってあだ名で呼ばれてたでしょ?」
「あの・・・ありがとうございました」
「そこはノーコメントなんだ?(^_^;)あ、今度さ・・・」

オレはメモを取り出そうと、カバンの中を覗き込んだ。
すると、購買から帰ってきた友達に「おい、何してんだよ?」と声をかけられた。

「ん?さくらさんとさ」
と振り返ると、そこにはもう君の姿はなかった。

「おまえ、さっきからなんか独り言つぶやいてたけど、大丈夫か?」

独り言って・・・・・?オレは確かに・・・。現に桜の花びらもらって、ここに・・・
ポケットの中の花びらは跡形もなかった。

そういえば、こないだ「世にも奇妙・・・」見た時、桜の木には不思議な力が宿っている
かもしれない、とか言ってた。
まさかな・・・。

「この桜、けっこう立派だけど、何年くらい経ってるのかなぁ?」
「さぁ?でもこんだけ大きいと、100年くらい経っててもおかしくないかもな」
友達はさらっと答えた。

「おまえ疲れてるみたいだから、さっさと帰った方がよくね?」
「いや、行くよ!疲れてねーし!!」
オレは友達とそのまま出かけた。


それっきり、キャンパス内で君の姿を見かけることはなかった。


季節が過ぎて、ジャケットをクリーニングに出そうと、ポケットに手を突っ込んでいたら・・・
中から桜の花びらが出てきた。
まるで今散ったかのような、きれいな花びらが。

やっぱり桜の木には不思議な力があるみたいだ。
あの時確かに君はいたんだね。
人前に出るのが苦手な君は、オレの友達の前から、存在も花びらも消したんだ。
じゃ、なんでオレの前には現れたんだろう?


オレは、すっかり新緑が茂った100年桜の前に立ってみた。
なんでオレの前に現れたの?と心の中でたずねた。
さわさわと枝が揺れて、聴こえた気がした。

「それはあなただったからです」と。

また会えるかな?桜の季節にいつかまた。





なんとなく勝手にBGM : 「One Love」