「僕とあたしの未来 66」



夏休み明けに提出するレポートのテーマ、何にするか迷走中。

学食で隣に座ってる君に、「何にする?」ってたずねてみた。

「え?まだなんか食うの?」
「違うよ!レポートのテーマだってば!」
「好きなのにすりゃいーじゃん。一緒に書くわけじゃあるまいし」
「・・・そうだけど」
「それともオレと一緒に書きたいわけ?そもそも『何にする?』って時点で
 一緒に、っていう意味か」
「・・・自意識過剰だよ!ばっかじゃない?」

訊くんじゃなかった。

「じゃ、お先に」
君はさっさと食べ終わって、学食を出て行った。


ふと学食のはしっこに目をやると、おおのくんがキャンバスに何やら描いている。
才能がある人っていいなぁ・・・。
天は二物を与えず、とかよく言うよ。


学食を出て図書館に向かう途中、あいばくんを見かけた。
ぼーっと何か考えごとをしていたのか、声をかける間もなく女子トイレに入って
しまい、女子の悲鳴を浴びていた。(>_<)
何があっても憎めないヤツだなぁ。


図書館に行くと、ストイックなまつもとくんが何やら調べ物をしていた。

「もしかしてレポ?」
あたしは小声でたずねた。

「いや、ちょっと気になったことがあるから、調べてただけ」
「マジメだね」
「たいしたことじゃないけど?みんなそうじゃないの?」
「・・・(^_^;)・・・そういえば、この前も走ってたね」
「あぁ、時間あると公園とか走ったりしてる」
「えらいなぁ」
「早朝とかすげー気持ちいいんだよ。きついこともあるけど、積み重ねて
 得られるものって大きいから」
「あたしには続けられないなぁ・・・」
「好きなことからやってみれば?好きなことだったら続くよ、きっと」

好きなこと?真っ先に頭に浮かんでしまったもの、それは・・・。

「まつもとくん、ありがと」
「え?なんか調べ物しに来たんじゃないの?」

??な顔のまつもとくんを背に、あたしは廊下に出た。


にのみやくんを見つけ、声をかける。

「あいつ、見かけなかった?」
「さくらい?さっき学食にいたよ」
「お昼の時?」
「いや、その後。あ、自販機の前で何買うか迷ってたみたいだった」
「ありがと!」


君ってそんなに迷うヤツだったっけ?
あたしもレポのテーマは迷うけど、ひとつだけ迷わないことがある。
嫌いなとこ探しに行っても、どうしても戻ってきてしまう、
あたしの中から離れていかない、絶対に否定できない気持ち。


君はまだ自販機の前にいた。あたしは君の横から、代わりにボタンを押した。

「あ!勝手に何押してんだよ?!」
「決まらないみたいだったから」
「それ、おまえの分な」

君はまた小銭を入れ、ボタンを押した。

「結局同じもの選ぶんじゃん」
「たまたまだよ!おごってもらったんだから文句言うな」
「ひゃくなんじゅうえんでおごってもらったとか言われたくないですぅー」
「ひゃくなんじゅうえんをバカにするヤツは、ひゃくなんじゅうえんに泣きますぅー」


学食で、また隣に並んで座って、一緒にポカリを飲んだ。


「レポ、何にする?」
「だから、一緒に書くわけじゃねーだろ?」
「・・・・・」
「それとも一緒に書くって前提?
「うん・・・」

暑さのせいだけじゃない、汗が流れた。

「一緒にいてもいい?」
「え?」
「一緒にいたいんだけど・・・ずっと」

一瞬の間が怖い。

「いいよ」
あたしの渾身の告白に、気が抜けるくらいあっさりと、君は答えた。

「てか、いっつも一緒にいるじゃん」
「そういう意味じゃなくて!」
「わかってる・・・」

君はこっちを向いて、照れくさそうに笑った。
あたしは涙が出そうになった。


二人の周りだけ、気温が上昇したような気がした。

そんな様子を、学食のドアからそっと覗いてた4人がいたってこと、
まだあたしたちは知らない。