「僕とあたしの未来 72」



逃げ恥みたいなむずキュンっていいなぁ・・・。
録画しておいたのを見終わった後、しみじみ思ってた。
あんなピュアな恋心、みんなどこかに忘れてきちゃってるんじゃないかって
しみじみと・・・・・ピンポン。
ピンポン?ってこんな時間に誰だよ?!
問い返してみても、こんな時間にピンポンする奴は約1名しか思い当たらない。

「はい?」とモニターを覗くと、やっぱり奴だった。(=_=)

「あのさ、ちょっといい?」
「なんですか?」
「また敬語に戻ってる(-_-;)」
「用件をお願いします(=_=)」
「(^_^;)ちょっと見てもらいたいんだけど?」
「明日にしてもらってもいいですか?」
「今!ちょっと来て」
「あたしはみくりの気持ちに浸ってるとこなんです!ジャマしないでくださ・・・」

あっけなく奴(もはや先輩とも呼びたくない)の部屋に連行された。

相変わらずシンプルナチュラルできれいに片付いた部屋。
ソファの前に置かれているはずのテーブルが、なぜか隅に追いやられている。
ぽっかりと空いたリビングの真ん中。

「ちょっと見てて?」
「はい?」

先輩(一応呼んでやる(=_=))は、リビングの中央ステージでいきなり踊り出した。
恋ダンス?こんなキュートなダンスを先輩が踊るなんて意外。
が、踊り進むにつれてその意外性はさらに増した。

う、美しい・・・。特にヘイカモン的な指の動き。(@_@;)

「どうかな?」
踊り終わった先輩は、なんだかやけにきらきらして見えた。
そんな真剣に踊らなくても?と思いつつ、なぜかこちらまで心拍数が上がってしまう。

「上手でした。先輩、ダンス経験あるんですね」
「まぁ、ちょっとかじった程度」
「かじった程度じゃ、きれいなフォームは出せないでしょ?」
「ハハハ・・・これ、忘年会でやりたいんだけど?」
「はい」
「だからおまえもだよ」
「は?あたしが先輩と踊るってことですか?」
「そう。おまえドラマ見てんだから踊れるだろ?」
「そりゃドラマは見てますけど、フリなんて覚えてないですし踊れないですよ?!」
「大丈夫、きっちり教えるから」
「部内の他のメンバーに頼んでみたらどうですか?」
「来週の忘年会まで全然時間ないし、俺の指導に耐えられるのはおまえぐらいしか
 いないだろ」
「なんなんですかー?!急すぎます!」

なぜこいつはこうなんだ?いきなりすぎてついていけない。


翌日から、先輩の恋ダンス指導が始まった。

「おまえ、天才的に覚えるのヘタだな!まさかここまでとは・・・」
「これでも一生懸命なんです!」 
「そこ!手の角度違うでしょ、こう!」
「先輩、細かすぎますよー」

エネルギッシュで大胆なくせに、繊細で生真面目なとこもあって、こだわりが強い。
うざ・・・。

「うざとか思っただろ?そんなんじゃいいもん作れねーぞ!」

いや、別に、そんなクオリティ求めてないです、あたしは。(=_=)覚えるだけで必死。
しかもムリヤリ引っ張り出されてやらされてるだけだし。


気づけばこの3日間、先輩の部屋で2時間近く踊らされていた。
体重も減っていいダイエットになった、なんて絶対言わないからな!(=_=)

「おまえの動き、かなりよくなったな。スタイルもよくなったんじゃね?」
「おかげさまで」
「あと足りないとしたら・・・色気かな」
「恋ダンスに色気はいらないでしょうが?!」

何言ってんだ、こいつは!?

「汗だくなので、ちょっとタオル取ってきます!」とあたしは自分の部屋に戻った。

先輩はケロッとして汗ひとつ出ていないのに、なぜにあたしだけ?
タオルで拭いても噴き出る汗。えぇい着替えてしまえ!とTシャツを脱いだとこに、
「あ、そうそう、忘れてたけど」となぜか先輩が入ってきた。え・・・?

固まるあたし&先輩。ちょっと戻るだけだからって鍵かけてなかったけど、
だからって勝手に入ってくるか?!

「悪い・・・」平然と先輩は出て行った。

なに?!何事もなかったかのように?いろんな意味で失礼すぎない?!
一呼吸置いてから、突然湧き上がる心の悲鳴。
見られた!セクハラ!職権濫用・・・ってのはちょっと違うか?


10分くらい経った頃、ピンポンが鳴った。そぉっとドアを開けると先輩が立ってた。

「き、今日の練習は中止。ほら、下の階の住人にもうるさいって言われかねないし」
「そうですね・・・」

って、ここ連日2時間は踊ってたのに今更・・・。

でもはっきりわかった。先輩の目は泳いでいて、あたしを直視しなかった。
そして去り際に「ごめん!!」と言って、先輩は部屋に帰って行った。
先輩が動揺している!!萌え・・・・・とか言ってる場合じゃないだろ?!あたし!!



忘年会当日、恋ダンスコスに身を包んだ先輩とあたし。
先輩の胸元にはメガネが。

「先輩、メガネかけるんですか?」
「あぁ、忠実に再現しようと思って。コンタクトはしてるからダテメガネだけどね」
「・・・・・そう・・ですか。そうですよね。先輩細かいですもんね・・・・・」

今にも口からこぼれそうになる言葉を、必死で抑えた自分自身に驚いた。
あたしは・・・・・・。


「お次は、部内一ダンスが上手いと噂のお二人による恋ダンスです、どうぞ〜♪」

いよいよ出番だ。

「行くぞ」と小さな声であたしに言う先輩の目には、メガネがなかった。

そして今までそんな打ち合わせしてこなかったのに、先輩はあたしの手を取って、
ステージの真ん中までエスコートした。

禿同、いや激しく動揺してるヒマはない。あとは実力を発揮するだけ。


ひゅぅぅ〜と声が飛び交う中、手拍子に合わせて踊る先輩とあたし。

みくりも言ってたみたいに、あたしも思った。
このままずっとダンスが終わらなければいいのに、って。


拍手喝采に包まれて、二人のダンスは終わった。終わってしまった・・・。
もう一緒に練習することもないんだね・・・。


いったんソデに引っ込んで、汗を拭きながら「お疲れさまでした」とあたしは言った。
「最高の出来だったよ」と、先輩はまたあの日のように、あたしの頭をぽふっと撫でた。

「先輩、なんでメガネかけなかったんですか?」
「かけた方がよかった?」
「忠実に再現するって言ってたじゃないですか」
「俺のメガネ姿は、おまえだけに独り占めさせてやるよ」
「・・・・・・・」

コノヒトにはなんでも見抜かれてしまう。
あの時必死で抑えた「あたしだけが知ってる先輩のメガネ、他の誰にも見せたくない」
って言葉も気持ちも。

あんな上から目線の言葉でさえ、今は心地いい。

認めたくないけど、あたしは先輩が・・・・・。でも言わない、言ってやらない。

もう少しあたしもむずキュンを楽しんでみたいから。(*^_^*)






勝手にすぺしゃるさんくす : 恋ダンス

やっぱりこれがBGM : 星野源 「恋」