「僕とあたしの未来 75」



中学生の頃、あの丘の上からの景色が好きだった。
部活が休みの日、学校帰りによく寄っては、ずっと景色を眺めてた。
遠くまで見渡せて、少しぐらいの嫌なことは忘れられた。
思わず叫びたくなるような空間の広がり。

ある日、オレの指定席であるベンチに、先客がいた。
同じクラスの君だった。

「そこ、オレの席なんだけど?」って言ったら、
「名前でも書いてあるの?」って笑った。

それまであまり会話をしたことすらなかったのに、ただなんとなく
並んで一緒に座ってた。

そんなことが続いた翌年のバレンタイン。
ベンチに座っていた君が、突然オレにチョコを渡した。

「オレに?」
「うん」
「なんで・・・?でもまぁありがとう・・・」
「好きな子からもらえなかったんでしょ?」
「イヤミかよ?!って、なんで知ってんの?」
「いつも見てればわかるよ、君が好きな子が誰かくらい」
「いつも見てれば・・・って・・・・・?」

君のあの言葉は、どういう意味だったんだろう?
問い返すこともできず、ホワイトデーにお返しを渡せないまま、
君は北海道へ引っ越して行った。


あれから15年経った夏の終わり、同窓会のハガキが届いた。
同窓会・・・もしかしたら君も来るかな?

さりげなく幹事のショウちゃんに訊いてみた。

「ショウちゃんさー、みんなに連絡ついたの?」
「うん、ほとんど連絡ついたよ」
「ほら、北海道に越した子とかいたじゃん?」
「あ、彼女?連絡したよ。アイバくんがずっと気になっちゃってた子でしょ?」
「って、なんで??なんで知ってんの?!」
「あなたね、わかりやすいのよ、当時も今も」

君が来るかどうかわからないけれど、オレは出席の返事を出した。


そして今日。
懐かしい顔やら、おまえ誰?!なくらいすっかりおっさんになっちゃった奴やら。
女の子の方があんまり変わらない気がする。でもその中に君の姿はない。

やっぱり北海道からじゃ遠いし、来ないのかな・・・。

そう思ってたら、ドアが開いて、白いシンプルなワンピースの女性が入ってきた。
君だ!!

「ごめんなさい、飛行機が遅れちゃって・・・」

ぽっちゃりしていた頬が少し細くなったものの、ノースリーブから伸びた腕も、
裾から出た足も、すらっとしていて、あの頃の華奢な姿とほとんど変わらない。
っていうか、綺麗になったよね・・・。

「アイバくん、見とれてないで話しかけてきたら?」
ショウちゃんがわざわざ近寄ってきて、オレに言った。

「ショウちゃん、ありがとう!!」
オレはショウちゃんの手を握りながら、言葉を返した。

「あの!」
オレが君に声をかけると、
「あ!アイバくん!?」
君が答えた。

「あの、あの時のお返しです!!」
オレは小さな箱を差し出した。

「なに?」
「ホワイトデーに渡せないままだったから」
「わざわざ持ってきてくれたの?」
「まぁ・・・」
「そういうとこなんだよね」
「?」
「そういうとこが好きだったんだ、私」
「え!?」
「いっつも見てた、アイバくんのこと」
「それでオレの好きな子のこと・・・」
「そうだよ、いっつも見てた。好きなのは私じゃないってことも
 わかってたから」
「もしかしてあの丘に行ってることも知ってたの?」
「うん。少しでもそばにいたくて、私もあの丘に行ってたんだ」

なんで今頃なんだろう。なんであの時気づけなかったんだろう。

「結婚は?」
オレは君の左手薬指を見ながらたずねた。

「してないよ。っていうか、まだアイバくんのこと好きだって言ったら
 キモい?」
「そんなことないです!!ぜひよろしくお願いします!!」

君は恥ずかしそうに微笑んだ。オレは半泣きになりそうなくらい
うれしかった。


ショウちゃんと彼女がさらっと帰ったのに紛れて、オレも君と一緒に
一次会のレストランを出た。


「私、北海道だけど、今すぐ仕事辞められないし・・・」
「大丈夫!ほら、飛行機で一っ飛びだし、先得だったら安くなるし、
 オレが会いに行くから!」
「変わらないね、アイバくん」
「そう?」

君はあの頃のように笑った。

北海道と東京の距離より、君との距離が近いことの方がうれしいんだ、オレは。


今夜のあの丘の上からの夜景は、いつにも増して一段と綺麗だろう。
君が隣にいるからなおさらね。







勝手にBGM : 「愛を叫べ」

勝手にすぺしゃるさんくす : 相葉ちゃん&翔ちゃん