「僕とあたしの未来 79 〜1111〜 」 少し飲みすぎてしまったみたいだ。あたしは松本先輩の肩を借りながら、 大通りの舗道で手を挙げた。 「ひとりで大丈夫?一緒に乗って行こうか?」 先輩がめずらしくやさしい。 「いいですよぉ、先輩は戻ってみんなと飲んでてくださぁい」 「いや、マンションの通路でキラキラばらまかれても、住人も困るしさ」 やっぱり撤回する。やさしくない。 「すみません、お願いします」と、停まってくれたタクシーに先輩が先に乗り、あたしを隣に座らせた。 街路樹の銀杏は、まだ色づいていないものさえあるのに、街中はすでにクリスマスを 意識したイルミネーションで装飾されている。 ネオンが眩しく見えて、あたしは手で目を遮った。 「やっぱり大丈夫じゃないじゃん。偏頭痛とかには光もよくないからね」 先輩は職場の医者かというくらい、健康情報やサプリに詳しい。あたしが偏頭痛持ち なのも知ってる。 「なるべく混まない道を行きますね」と、タクシーの運転手さんは言った。 「今年のハロウィンも正気の沙汰じゃありませんでしたよ」とため息混じりに 運転手さんはこぼした。 「なんであんな騒ぎになっちゃったんでしょうねぇ?ちょっと前までは子どもが ちょこっと近所を回る程度だったのに」 先輩が言うと、ついあたしも口をはさみたくなった。 「そ!だいたいねぇ、ひとりじゃなんにもできないくせしてさ!だからあたしはひとりが好きなのよぅ!!」 「でも、素敵な彼氏さんがいらっしゃるじゃないですか?」と、運転手さんが大きな勘違いをなさったので、 即刻「彼氏じゃないですぅ」と否定した。 「おやおや、彼女さんは素直じゃないですねぇ。彼氏さんもたいへんだ」 「そうなんですよ!」 と運転手さんをさえぎるかの勢いで、先輩は言った。 「ちょっと!先輩!なによけいなこと言ってんすか?!あたしのどこが素直じゃない って・・・」 少しのカーブで車体が揺れ、あたしのからだが先輩にもたれた。先輩はそのまま、 あたしの頭を撫でた。 「あ、その先左に入って、坂を上りきったところでお願いします」 先輩が完璧に道案内をしてくれて、無事家にたどり着いた。 「お幸せに(^_^)」と運転手さんはお釣りを手渡しながら言った。 「だから違・・・」と言うあたしの肩を、先輩は抱いたままだった。 「車のナンバー見た?」 「先輩、それ見れてたら、あたしまだみんなと飲めてますよぅ!」 「確かにその通りだろうが・・・1111だったんだよ」 「1111?」 「わんわんわんわん。なんかかわいくない?」 そういうこと言う先輩の方がかわいすぎる・・・って思ったけど、 素直じゃないから言ってあげない。(^_^;) あ。やっぱりあたし、素直じゃないか。 その後・・・予想通りあたしは具合悪くなって、先輩の部屋のトイレから 出られなくなり、やっと落ち着いたところで、先輩のベッドを占領し、爆睡して しまったらしい。 先輩は「ソファで小さくなって寝ていた」と、目が覚めたあたしに若干の嫌味を言った。 「朝、食べられる?おかゆ」 キッチンに立つ先輩がたずねた。 「たぶん」とあたしは答えた。 なんだかこんなシーン、映画で観たことあるなと思いつつ、やっぱりこれって 彼氏彼女・・・になったんだよねぇ・・・と思ったとたん赤面し、なんでなのかわからないけれど、 ほんの少し涙がこぼれた。 勝手にすぺしゃるさんくす : 松本さん |