「ひまわりのあの子」


ボクは駅前の花屋でバイトしているしがないフリーター。
なかなか仕事が長続きしないそんなボクだけど、かれこれもう1年か。
花屋って見かけは花だけに華やかだけど(シャレか?)、朝は早いし、夜は遅いし、
冬場は手がめちゃくちゃ荒れるし、けっこうつらいもんよ。
そんなボクのバイトが長続きしている理由は・・・・・。

毎朝、いや毎晩、この道を通るあの子。
朝はあわただしく走って行ったり、時には友達なんだろう女の子と家路を急いだり。
時折見せるその笑顔が、まるでひまわりのように明るいんだ。

ボクはしがないフリーター。
あの子はただの通行人。
ボクはただ、あの子の笑顔を陰でひっそりと見てるだけ。
のはずだった。

ある夜、あの子がいつものように店の前を通りかかった。
でもなんだか様子がおかしい。
いつもならほとんど通り過ぎるだけのあの子が、店の花をぼんやり見つめてる。
どうしたんだろ?
って、花屋ならお客さんが来たって思うのがふつうなんだけどね。
どうしたんだろ?は、ないよな?(笑)

その夜のあの子は、いつものひまわりじゃない、悲しみのベラドンナだった。
(どっかで聞いたような?苦笑)

ボクはおそるおそるたずねてみた。
「何かお探しですか?」
はっと我に返ったように、あの子はこっちを見た、ボクの顔を。
ボクは硬直して、たぶん顔は辛苦、いや、真紅のバラのようになってたと思う。

あの子は、ふっとため息のような笑いをこぼしながら、ぽつりと言った。
「・・・元気になれるような花・・・ないかな・・・」
ボクは初めてあの子の声をストレートに聞いて、思わず言葉が返せなかった。

「あ・・・ごめんなさい、いいの」
そして身をひるがえしてあの子は帰ろうとする。

「あ、待ってください!」
ボクはあわてて、奥のバケツに入っていたカスミソウを、残り全部花束にして、
「はい」とあの子に手渡した。

「・・・・・・」
「いつも引き立て役と思われてる花だけど、この花だけだとすごく可憐で華やかでしょ?」

よくこんな言葉がとっさに出たもんだと、その時自分でも感心したよ。

「・・・・・ほんと・・きれいね」
いつものひまわりほどではないけれど、ほんの少し笑顔に元気が戻った気がした。
「おいくらかしら?」

「あ、サービスです」
「え?」
「あ、いや、今日はサービスデーなので、特別です」
「で、でも・・・」
「いいから持ってってください!」

なんてこと言ってんだろ?サービスデーでもなんでもないじゃん。
でも、今夜のボクはそうしたかった。

「ありがとう・・・」
あの子はカスミソウの大ぶりな花束を抱えて、くるりと向きを変えた。
そして・・・一瞬振り返って、いつものひまわりのような笑顔を見せてから帰っていった。

・・・店長に怒られないうちに、レジにお金入れとこ。自腹だ。(苦笑)

何があの子の元気をなくさせたかは、ボクは全然知らない。
けれど、あの子が笑っていてくれることが、ボクのいちばんの幸せだから。

え?これって恋?
・・・・・・しっかり恋か。(照)

ひまわりのようなあの子へ。
明日も元気に頑張ろう、ね?お互いに。