「絆」 〜愛のあんこ〜


12月に入って、いよいよ出産が近づいてきた。
しばらくの間赤ちゃんにかかりきりになるから、今のうちに片付けでもしておこう。

タンスの引出しの奥を整理していた時のこと、ある一通の手紙が出てきた。
差出人はあの人だった。

引き戻される心。蘇る想い。

それはとある冬の日、あの人から初めて来た手紙。

表書きを見ただけですぐわかるクセのある文字が、私の名を躍らせている。
彼は必ず、季節を感じさせてくれる言葉を書いてくれてたっけ。

ああして一緒にいるようになって、なぜ少しずつすれ違うようになってしまったんだろう?
引き出しの中にはまだ、数通の想いがつまっている。
私は捨てることができずにいた。
見苦しい、未練がましい。
いつか振り返り、ただ単に懐かしむことができる日まで大切にしまっておこうと思った。
もう大丈夫・・・かな?って思ってたのに。

「素直に言えなくてごめん」
最後の手紙にはそう綴られていた。
躍るその文字が、涙でかすんでよく見えなくなった。

ふと気配を感じてふり向くと、あなたが立っていた。
ちょっと淋しそうな目をして微笑んでる。

「・・・たい焼き買うてきたんやけど、食べる?」

私は何も言わずに、あなたの胸にもたれた。

「泣きたいなら泣いたらええやん?」

あなたの指は私の髪をやさしく撫でてくれる。
あなたの声は他の誰より、私の心に深く染み入ってくる。

「ワシ、あんこやで?オマエ、クリームがええんやろ?」
「うん・・・」
「ここの、いっつもしっぽまでぎゅーっとつまっとるなぁ?」
「うん・・・」

その日食べたたい焼きは、ほんのすこし涙の味がした。
けれど、私の心の中には甘い香りが広がった。

「ここにもでっかいのがつまっとるしなぁ?」
そう言って、もそもそ動く私のおなかを撫でた。
「ほーら、聞こえてんで?もうすぐやなー?」

外は急に寒くなったけれど、家の中はこんなにあったかい。
あなたっていう体温が、冷えた私を包んでくれるから。

あの日、あの人も私も言えなかった素直な言葉、今度こそ言える。

「私の胸の中にもね、成之っていう名前の愛のあんこがぎゅーっとつまってるんだよ?」
「・・・突然なに言うてんねん?」

あなたは、めちゃくちゃ照れ臭そうな顔をして笑った。