「絆・出会い編」 〜光の花束・出会い〜 |
オマエと出会ったのは、去年の夏。アイスキャンデー日和な暑い日やったな。 ワシは、勤め先の不動産屋の仕事を終え、帰ろうと表に出たとこやった。 都内でも有名な花火大会の夜で、打ち上げ場所から近いうちの店の前は、いつになく人通りが多かった。 デカい花火が上がると、店の前の通りからもよう見えたからなぁ。 浴衣できれいに着飾り、彼氏と並んで歩く女の子たちに混じって、ぽつんとひとりで立っとる子がおった。 時折上がる大輪の花火を見上げながら・・・ぽろっと涙をこぼしたとこを見てしもうた。 その姿がなんだか淋しすぎて、切なくて、ワシは思わず・・・声をかけてしもたんや。 「あ、あの・・・?」 「?!」 「おひとりですか・・・?」 なんちゅードツボな聞き方すんねんっ?!アホッ!! 気を取り直して、話を続ける。 「僕もひとりで見てるんですよ、毎年・・・。」 「・・・・・」 「ここはけっこうよく見えるでしょう?」 「・・・はぁ・・・」 「今日は暑いですねぇ?あ、アイスキャンデー食べません?」 「・・・・・」 「うちの店、そこなんですわ。冷凍庫にストックがあるんで・・・どうですか?」 「いえ・・・いいです・・・」 うわー・・・会話空回りしとる・・・アカン、これ以上続かんわ・・・。 でも次に口を開いたんは、オマエの方やった。 「あ、あの・・・?」 「はいっ?」 「お店って・・不動産屋さんのビル・・・ですよね?」 「ええ、そうですけど?」 「屋上のぼれますか?」 「へ・・・?」 「行きたいんです」 お、屋上?!なんや?思いつめた顔しとるけど、まさかーっ?! 「あ、でも・・・屋上出るドア鍵かかっとるんやないかなー?」 ワシはごまかしてみた。鍵なんてかかってへんけど。 「どうしてものぼりたいんです!お願いしますっ!!」 懇願するような目に負けた。ワシがおるんやから、まさかそんな大それたことはせえへんやろ? とりあえず屋上に行ってみるか。 エレベーターで一気に最上階の8階まで上がって、それからは階段。 むっとした空気の中、階段を上りきり、屋上に出る重いドアに手をかける。 ガチャ・・・ 風がけっこう強い。瞬間汗が引き、湿気を帯びた肌から熱を奪っていく。気持ちええーっ! オマエも・・・なびく髪を押さえながら、どことなく心地よさそうな顔をしとる。 その時、どでかい花火が上がった。そういや、屋上で花火なん見たことなかったわ。 こんなに間近で開く赤や金色の光の花々を、初めて目の当たりにする。 ワシはなんやわからんけど、鳥肌が立っとった。 きれいなもんを見て感動するって、こういうことなんやろか? 「きれい・・・」 オマエは一言つぶやいた。目にいっぱい涙をためて・・・。 「ここの花火、あの人と見たの・・・」 そう言いながら、あふれる涙を拭おうともせんかった・・・。 ワシはなんも言えず、オマエと並んで花火を見とったわ。 その人の心のおきどころによって、見え方がちゃうんやなー?花火って。 子供の時分は誰もが、祭気分ではしゃいで見とったはずやのに・・・。 オマエがうれしそうに花火を見上げる日は、いつ来るんやろか? 最後に、すきっ腹に響くような音が轟き、都会の夏の花火大会は終わっていった。 「どうもありがとうございました。おかげですてきな花火が見れました。」 オマエはお礼を言って、くるりと背を向け、階段を下りようとする。 ワシは・・・思わず口走っとった。 「来年もまた一緒に見ませんか?」 びっくりした目でワシを見たオマエは、淋しそうに軽く微笑んだ。 2ヶ月後、ワシらは一緒に暮らし始めたんやったな。結婚式もなんもしてやれへんかったけど・・・。 オマエの心に誰かの影を感じながらも、ワシは二人で生きていきたかったんや。 そして、今年もまた夏が来る。 今年は二人やないで?おなかにはもうひとりおるんやからな。 浴衣を着とるオマエ。 「おい、あんまり帯きつく締めたらアカンて!おなかの子が苦しい、言うとるで?」 「まだそんなにおなか大きくなってないから大丈夫よ?」 ワシも、オマエが選んでくれた浴衣を着てみる。 「これ、帯ってどうやるん?」 「ちょっとこっち向いて?」 おかんに服着せられとる子供みたいやな。 ふわりとええ匂いがして、ワシはなんや照れ臭くなったわ・・・。 蒸し暑い都会の夏を、下駄をからりと鳴らしながらそぞろ歩く。 今年の花火、去年より輝いて見えるのんは、ワシの気のせいやろか? ふと、隣にいるオマエを見る。 せやな・・・。 色とりどりの光の花束が、ワシら家族を祝福してくれたんやわ、きっと。 空を見上げるオマエの横顔、子供みたいにはしゃいどるもんな。 |