「絆」 〜花吹雪の中で〜
春・四月。
桜の花びらが風に舞い、ピンクの雪を降らせている。

あれから私たちは、何かにつき動かされるかのように、家を買うことを決断した。
それからの日々のなんとめまぐるしかったことか。
いくらレトロな雰囲気が気に入ったとはいえ、その家は手を加えるには十分すぎるほど
古ぼけていたのだ。

旦那様のお店の出入りの業者に頼んで、プチリフォーム決行。
私たちは暇さえあれば、新居となるその家に出向き、少しずつ変わっていく家を
眺めていた。

できることは自分たちでもやった。
時にはペンキにまみれながら、くすんだ壁の塗り替えお手伝い。
かわいくタイルを張って、キッチンの出窓を手直し。
リビングに手作り棚を取り付け。
レンガで囲んだ庭のガーデニングコーナー。
素人でもやろうと思えばけっこうできるもんだ。

自分たちで手を動かした分、安上がりな上に、よけい愛着も湧いてくる。
ここが私たち家族の家になるんだものね。


「おーい、いつまで庭でぼけーっとしてんねん?ダンボールはよ開けんと、今夜は
 茶も飲めへんで?」
彼が縁側から私を呼んでいる。
「ごめん、ごめん。あまりにもめまぐるしかったから、ちょっとぼんやりしちゃった」
私はペロッと舌を出した。

そう、今日は新居であるこの家への引越しの日。
彼が一目惚れして買ったこの家、今では私の方が惚れこんでいるかもしれない。

「我が家に見惚れるのもええけど、そんくらいワシのことも惚れといてやー?」
恥ずかしげもなく彼がそんなことを言うから、
「あら、じゅーぶんすぎるくらい愛してるわ、あなた」
と返してあげた。
自分で言い出しておきながら、私に返されて耳まで赤くなってる彼を見てるとおもしろい(笑)、
いや、幸せだなと思う。

春・四月。
隣の家からの桜吹雪に背を向けて、私は縁側から我が家へと入る。
さ、荷ほどきしなくちゃね。

「お引越し 迎えてくれた花ふぶき」一句。