「絆」 〜春でございますね〜



庭を掃除しながら、お隣の桜の木を眺めていた。
ここに移り住んで丸8年。うちと同じような日本家屋だったお隣も、
今はイングリッシュガーデンを彷彿とさせる立派なお庭を構えた邸宅へと変わった。
そのお隣のガーデンに、執事の影山さんがやってきた。

「山丘様の奥様、おはようございます」と、いつもきっちりとご丁寧な影山さん。
「おはようございます」と、こちらも自然と最敬礼になる。

「お庭のお手入れですか?」
「いえ、お嬢様のお部屋にお花を一輪・・・と思いまして・・・。山丘様の奥様は、
 こちらの桜をごらんになっていらっしゃったのですか?」
「えぇ」
「開花までもうすぐでございますねぇ」
「そうですね。今年はちょっと寒かったから」
「こちらの桜は、こちらにお住まいだった方から譲り受けたと、旦那様からお聞きしましたが・・・」
「えぇ、私たちが8年前ここに越してきた時、立派な桜だなぁって思いましたもん」
「さようでございましたか。どれくらい長い間、人々を見下ろしてきたんでしょうねぇ?」
「ずいぶん長い間、でしょうね・・・」

影山さんと桜のつぼみを見上げながら話していたら、パタパタパタと美羽が出てきた。

「ママッ!ひとりで影山さんとお話しててずるーーーーーーいっ!!」

美羽、ずるいって・・・ねぇ?(^_^;)

「美羽様、おはようございます。本日もおかわいくていらっしゃる」
「えへへ☆そう?ありがとう」
「髪、お切りになりました?」
「あ、ママが切りすぎちゃったの・・・」
「とてもお似合いですよ(^_^)」
「そうかなぁ?美羽は『ちびまる子ちゃんみたい』って思っちゃったんだけど」
「お母様に似てらして、とてもおかわいいです☆」
『え?そうかなぁ?!』

思わず、美羽と一緒に言ってしまった!!(≧▽≦)ゞ

「あ、先日はお土産をありがとうございました」
影山さんからいただいた沖縄のお土産のお礼を言った。

「お口に合いましたでしょうか?」
「えぇ、とてもおいしくいただきました」
「それはそれはお気に召していただけて、ありがたき幸せでございます」
「ママ、なに食べたっけ?」
「ほら、沖縄限定のお菓子、いただいたでしょ?それと泡盛」
「あぁ、あのお菓子ね。ふつーにおいしかった!」
「ふつーに・・・でございましたか?(^^ゞ」
「ふつーに、じゃないでしょ?!」

私は焦ってフォローしたつもり。(^_^;)

「パパ、あのお酒飲んで、すんごくよっぱらっちゃって、ぐぅぐぅねちゃったよね?」
「そう・・だね(^_^;)」
「泡盛は度数が若干高うございますからね。わたくしの友人がつとめておりますバーでも
 扱っているとのことで、よく関西弁のかたが飲んでいらっしゃるそうでございますよ」
「もしかしてそれ、パパじゃない?」と、美羽が笑った。

パパは時々、ご機嫌で帰ってくるからね。もしかしたらそうかも?(^_^;)

「ちょっとー!影山ーっ??なにしてるのー?!」

奥の方からお嬢様の声がした。

「お嬢様がお呼びですので、これにて失礼いたします・・・。美羽様も素敵な春休みを
 お過ごしくださいませm(_ _)m」
「ありがとー♪影山さん☆」

美羽は無邪気に手を振った。

「いいなぁ・・・お嬢様って、なんでもやってもらえるんでしょ?美羽もお嬢様になりたーい!!」
「そんなこと言ったら、ママだってたまにはお嬢様になってみたいわ」
「ママは・・・ムリ!!」
「なによー、美羽!!ママだってまだ若いのよ?」
「ママにはパパがいるでしょ?だからお嬢様にはなれないの!」
「シビアな娘・・・(=_=)」

そんなのもちろん例えばの話よ?あーあ、なんか年齢とか立場だけで判断されるの、
ものすごい理不尽だわ。

「山丘様の奥様・・・」

一度お屋敷に入っていった影山さんが、また庭先にやってきて言った。

「お嬢様のお部屋にもお花を飾らせていただきましたが、こちらのお花は山丘様の奥様に・・・」
「私に?」
「よろしかったらどうぞお受け取りくださいませ」
「どうもありがとうございます・・・」

上品な紫色のスミレのプチブーケ。

「ママ、よかったね。ママも女の子だもんね」と、美羽が言うと、影山さんは穏やかな
表情で笑った。
「そうでございますとも。奥様であろうとお嬢様であろうと、永遠の乙女なのですから」
影山さんの言葉に、思わず涙が出そうになった。

「たびたび失礼いたしました」と、丁寧に挨拶をし、影山さんは帰って行った。
影山さんに見守られてるお嬢様が、ちょっぴりうらやましく思えた。

「おーい!夏菜ー!!Yシャツの新しいの、タンスのどこ入れたん?」

パパが縁側で呼んでる。

「はーい、ちょっと待ってー」

私は、つっかけたサンダルでパタパタ走り、縁側から家に入った。
ロマンチックとはほど遠いかもしれない日常。だけどこれも大切な毎日。

影山さんに見守られてるお嬢様が、ちょっぴりうらやましく思えたこと、
パパにも美羽にも内緒にしておこう・・・。(^^ゞ













勝手にすぺしゃるさんくす : 宝生家・執事・影山さん