「絆」 〜窓の上の一筆書き〜
窓の外はすっかり秋の色。銀杏の葉もいい色に色づいてきた。
アパートの大家さん、「この季節ははいてもはいても落ちてきてねぇ」って
こぼしてたっけ。
そう言いながら、けっこう楽しそうなのは、やっぱり人柄の温厚さから
来るんだろうな。

「冷え込んできたなぁ。今日は特にさっぶいわー」
タバコを買いに出ていた彼が戻ってきた。
「ホント、寒いから窓ガラスがくもってきちゃったね」

人差し指でつるつるっと、へのへのもへじを描いてみる。
すると、彼はその隣りにネコらしき絵を描いた。

「どや?うまいやろ?キテ○ちゃん」
「え?それキテ○ちゃんなの?」
「どう見たってキテ○ちゃんやないかい!」
「そーお?!」
「そうや!」
「・・・そう、そうね。そういうことにしときましょ」

私は苦笑しながら、キテ○ちゃん(らしきネコ)の隣りにドラ○もんを描いた。

「どう?うまいでしょ?」
「なんや?それ」
「ドラ○もんにきまってるじゃない」
「えー?それがぁ?!ドラ○もんはこうやで?」
「違うよー、こうだよー!」

結露だらけの窓ガラスは、私たちのヘタウマなお絵描きで、いつのまにか
雫でびしょびしょ。

目の前の窓に描くところがなくなったので、彼は隣りのガラスに何やら
描き始めた。

「まるで子供みたいだね」
私が笑うと
「自分かて同じやん」
笑い返す。

そして、三角の真ん中から一本、縦に棒を引っぱって・・・
夏菜、成之と名前を並べて書いた。
振り返って「ふひゃひゃっ」って笑ってる。

「ホント子供だね」
私はなんだか恥ずかしくなって言った。

「たまにはええやん、こういうの」
「・・・・・うん」

私は彼の肩にちょこんと頭を乗せた。


ファンヒーターの上で音を立てるやかんの、しゅんしゅんという
やわらかい音を聴きながら、心もからだも温まった私たちだった。