「絆」 〜ほら、まだ残ってるやないの!〜


梅雨明けしたとたん、なんや涼しいなぁ、今年の夏は。

「これじゃ、プールも行けへんなー。せっかくの夏菜のビキニが・・・」
「んなもん、持ってるわけないでしょっ!このスタイルで着れるかいっ?!」
「せやなー、ちょっと無理かー?」
「わかってんなら言うなっちゅーの!」
「いや、ホンマ、ホンマすこーしやで?ふくよか言うたらええんかな?」
「もうええわ・・・」

夏菜はブツブツ言いながら、キッチンでメシを作り出した。


ウチは昔の家やから、風通しはめっちゃええ。その代わり、冬はごっつ寒い!!
冷え性の夫婦には、ちょっとこたえるけどな。そんな時は、二人でくっついて・・・・・
・・・ま、それはおいといて・・・。

夏菜はメニューに困ると、カレーか野菜炒め。今夜もどっちかやろ、たぶん。(苦笑)

「昨日ねー、お隣のおばさまからお野菜いただいたの。なんでも知り合いの農家で
 作ってるものなんだって。『やっぱり味が違うのよねー』って言ってた」
「この辺りはまだ、畑がぎょうさんあるしなぁ。何もろたん?」
「トマトでしょー、なすでしょー、あとはピーマン」
「そんなにもろたん?なんやお返しせんとあかんなー」
「そうだねー。今度なんかお返ししとく」

お隣のおばちゃんは、ご主人を亡くされて一人暮らし。もしかしたら、美羽を連れて
遊びに行くのが、いちばんの土産なんかもしれへん。


はい!と出てきたんは、やっぱり野菜炒めやったけど、そん中にはいただいた
ピーマンも入っとる。

「豚汁も作ったからね」

せやった!根菜類がいっぱい取れるからて、夏菜は豚汁も作るんやった!

本日の献立。野菜炒め。豚汁。トマト。なすの浅漬け。

「いただきますー!」「いただきまーす!」
「いただきましゅ」美羽が小さい手をあわせて言うた。

美羽はからだの割によう食べる。けどあんまり上手く食べられへんから、
ようこぼすんや。

「ごちそーしゃま!」

あっと言う間に、美羽はごはんをたいらげた。

「ほら、おつゆ残ってる!それにごはん、こんなにまだ残ってるやないの!
 一粒一粒大事に食べなアカンで!」

夏菜が言うた。

「なんやオマエ、言い方うちのおかんみたいやな?」
「そ、そう?」
「似てきたんとちゃうか?」
「あなたの言い方聞いてたら、自然にそうなるわよ」

苦笑いしとる。

「にてきたんとちゃうかぁ?」

美羽まで言うた。

「いいから美羽は食べなさい!」
「はぁーい」

ささやかな家族団らんのひととき。

縁側の風鈴が、ちりりんとええ音を立てた。