「絆」 〜ワシの胃腸薬〜 正月も過ぎ、仕事も始まり、町もごくごくふつうの冬の日に戻った。 ワシも、鏡の中の顔が少し丸くなったのを気にしながら、いつもの休日を過ごしとった。 「あなたー、お昼何にする?」 夏菜が聞いてきた。 「ワシがなんか作ったろか?」 「え?またパスタ?」 「冷蔵庫になんやあるやろ?題して、成ちゃん残りもんスペシャル!!」 「・・・うん・・・」 夏菜の少し不安そうな顔が見て取れたけど、気にせえへん。 まずは棚の中に残ってた鏡餅をくだいて、かきもち。 揚げてまだ熱いうちに塩をかるーく振って・・・これは3時のおやつ。 ええと・・・と冷蔵庫をあさる。あ、昨日で期限切れのかまぼこ! なんやー、これっぽち残してー、しゃーないなー、夏菜は。 あれ、こんなとこにうどん1玉。それとハム、卵、と。これでええやん。 よし!野菜室に白菜とキャベツもある。これを大雑把にたくさん切って・・・ 残ったかまぼこ、ハムも小さめに切って、フライパンでじゃじゃっと炒める。 そこへ・・・水とうどんのつゆを適当に。 これぞ男の料理や!! ぐつぐつと煮立ってきたところに、うどんと溶き卵をふわっ。 そうそう、ねぎの薬味を・・と。 「夏菜ー!できたでー!」 「はーい」 たたんだ洗濯物をしまった夏菜が、キッチンにやってきた。 「あ、おいしそう」 「おいしそうやなくて、おいしいんや!」 「はいはい、そうね」 苦笑いをしながら、夏菜はどんぶりを出す。 「おやつもあるんやで?ほら」 「かきもちも作ったのね」 「ワシ、これけっこう好きなんよー」 「でも、食べ過ぎに注意してね」 「はいはい!」 そう言っていたワシとしたことが・・・成ちゃんスペシャル煮込みうどんの後、 つまんだかきもちが止まらなくなってもうて・・・ 「く、苦しい・・・」 こたつに足をつっこんで、ごろんと横になる。 「だから言ったのに・・・食べ過ぎに注意してね、って」 「そんなん言うたかて、好きなもんはしゃーないやん!」 「限度があるでしょう?」 「うぅー」 「しょうがないなー」 そう言いながら、夏菜はワシのおなかをそっとさすり出した。 まるでおかんに撫でられとる子供やわ。 「だいじょうぶ〜?」 「・・・ああ・・・」 ふと思った。 夏菜のこの手は、ワシにとっての胃腸薬やな、って。 外は寒いけど、ワシの心の中はこたつみたいにほっかほかになった、 正月明けの、ごくごくふつうの冬の日やった。 |