「絆」 〜風の落としもの〜



花曇りのとある日、強い風が吹いた。
近くの公園の八重桜も、大きな実のようにほっこりと咲いた花の枝を、
右に左に揺らしている。

濃いピンク色のアーチの下を、美羽を乗せたベビーカーを押しながら歩いていくと、
花びらがさわさわと舞い上がっては落ちてくる。

並んで歩いていた彼が、「舞う花吹雪、やな」と、まるで歌うようにつぶやいた。

「だぁ〜〜〜!」と美羽が指さしている。
指さす先には、花びらたちがピンクのじゅうたんよろしく、敷きつめられたように
落ちていた。

「なんや、模様みたいに並んどるわ」
「ホント」

よく見ると、枝ごと落ちてしまっている花もあり、私はそのいくつかを束ねて、
まんまるいブーケを作った。

「どう?かわいいでしょ?」
「まとめるとまたキレイやなぁ」
「帰ってグラスに生けましょ。花束を買わずに済んだね」

「”風の落としもの”やで」

彼の言葉に、私も
「うん、素敵な落としものだね」
と、強くうなずいて微笑む。

花冷えの風の中を、しばらくの間佇んでいた。


   「散りゆきて 幸せ運ぶ 八重桜」