「絆」 〜もう一つの記念日〜


いつもよりちょっと遅く帰ってきた彼は、リビングに入ってくるなり、
「今夜はカレーやな」とうれしそうな顔をした。
カレーは彼の好物の一つ、中でも特にチキンが好きで、カレーと言えば我が家では
これがメインだ。

「やっぱりこのヨーグルトに漬け込むのんが、独特の風味を引き出すんやなぁ」
パクつきながら、もっともらしく料理の解説をしている。

彼は昔より味にうるさくなってきたように思えるのは、気のせいだろうか?
それはたぶん、自分でも料理をするようになったせいかもしれない。
ありがた半分迷惑半分なのが、正直なところなのだけれど。

「どうでもええけど、さっきからオマエ、何見とるんや?」
向かい合わせに座る私に、彼はたずねてくる。
「ん?ほら・・・もうすぐ1年だなと思って・・・」
のぞき込んだ彼の顔がフッと優しくなった。
「結婚式の写真かぁ・・・そやな、あれからもうすぐ1年や」

きれいなドレスを着れたこともうれしかったけれど、私をびっくりさせようと、
内緒で結婚式を計画した彼の苦労を思い出すと、なんだかじーんとしてしまった。

「なんや、何泣いてんねん?!」
「うん?ありがとう・・・」
「照れるやろーーーーー!」
ふにゃっと笑って彼はごまかしている。
そして、こたつの中で私の足を蹴った。だからすかさず私も蹴り返す。

さらに追い討ちをかけるように、私は隣りに座って、彼の肩にちょこんと自分の頭を乗せた。
「やっぱりあなたはあったかいね」
「カレー食うたからよけいあったまっとるしなー」
「照れちゃって〜」
「からかうんやないー!」

すると・・・
「うぁーーーん!!」
突然、美羽の泣き声。あ、目が覚めちゃった?
ベッドで寝ている美羽をのぞき込むと、どうやら寝言だったらしい。
怖い夢でも見たのかな?
一緒に美羽の顔を見つめていた彼は、「親孝行な子や」とニヤリ。
私もぷっと吹き出して笑った。

そうだね、もう少し仲良くこたつでくつろぐことにしよう。
並んで”もう一つの記念日”の写真を眺めている私たち。
こたつであったまってるから、別にからだが冷えているわけではないのだけれど・・・
二人でぴったりくっついて・・・ね。