「絆」 〜Lovers' Promise〜


「やだ!いくの!!」

美羽が廊下で騒いどる。なんや朝から騒々しいなぁ。

「雨降ってるのよ?こんな日に公園に来る子はいないってば」
「だってやくそくしたもん!しょうたくんとっ!!」

しょうた?しょうたといえば、美羽の好きな子の名前やないか?

「やだやだやだ!いくんだもん!!しょうたくんくるんだもん!!」
「翔太くんのおうちに電話して聞いてあげる。今日はおうちにいるって
 言うよ?きっと」
「こうえんいくの!!」
「待って、電話してあげるから」

夏菜が電話しとる。こんな雨の中、公園に行くわけないやろ?

「呼んでるけど出ないねぇ・・・お留守だ」
「ほら!やっぱりしょうたくん、こうえんにいってるんだ!!
 みうもいくーーーっ!!」
「美羽ー」

夏菜ママもお手上げや。ここはひとつパパの出番やな。

「美羽、パパと一緒に行こか?」

リビングから廊下へ出たワシは、美羽の顔を見ながら言うた。

「えー、パパとー?」

美羽は露骨に嫌な顔をした。なんや、パパやったらアカンのかいな?!

「公園行ったらアカン言うてないやろ?パパが一緒に行ったる」
「うん・・・」

美羽はしぶしぶ了解した。ったく、幼稚園児にしてこの頑固さ。
いったい誰に似たんやろ?この意思の強さはママ似か・・・?(^_^;)


本降りの中、ワシと美羽は傘をさして、公園へ向かう。
美羽は、ピンクのレインコートと長靴をはき、ご機嫌で歩いとる。


公園の端まで来ると、美羽が駆け出した。

「そんな走ったら転ぶがな。美羽ー!!」

呼んでもムダや、美羽は一目散に駆けて行く。


公園のブランコが見えてきた。そこには美羽と男の子とそのママらしき人が。
え・・・ホンマに来とったん?!
「ほーら来てへんやろ?」って言うつもりやったのに。


「パパー!!」

やっと美羽が振り返って、ワシを呼んだ。

しょうたくんのママが、ワシに会釈した。ワシも慌てて会釈を返した。

「パパ!やっぱりしょうたくん、きてたでしょ?」
「せ、せやな・・・」
「すみません、翔太がどうしても行くって言ってきかなくて。
 美羽ちゃんとの約束だから、って・・・」

しょうたくんのママが苦笑いしとる。ワシも笑うしかない。

美羽は、しょうたくんと一緒に雨の中を楽しそうに歩いとる。
わざと水たまりをパシャパシャ。そんなんしたら、泥がはねてママが怒るがな。(-_-;)

「奥様には、翔太ともどもお世話になってまして・・・」

しょうたママがワシに話しかける。

「いっつもすんません。うちのも美羽もなんやご迷惑かけてませんか?」
「いいえー、一緒に楽しく過ごさせていただいてます。奥様も美羽ちゃんも
 幸せですねー、パパがこんなに優しくて」
「そんなん褒められても困りますがなー。何も出まへんで?」

調子こいて話しとるうちに、美羽としょうたくんの姿が見えなくなった。
美羽、どこ行ったんやろ・・・あ、滑り台の陰でしゃがみこんどる。
泥だんごでも作っとるんやろか?そんなんしたらママが鬼のように・・・・・

次の瞬間、ワシは固まった。

「翔太ー?」

しょうたママがやってきて、ワシと同じように固まった。

娘のキスシーンを目前にするとは・・・。あぁ、美羽がぁぁっ!!

「もーしわけありません!!」

しょうたママは、ワシに頭を深々と下げ、しょうたくんの手を取った。

「なに?ママ・・・」
「なに?ママ・・・じゃありません!!ごめんね、美羽ちゃん・・・」
「しょうたくんのママ、どうしてごめんなの?」
「どうしてごめんなの?って・・・あのなぁ、美羽・・・」

ワシはやっと口を開いた。

「だってみう、しょうたくんのことだいすきだもん!!」
「ぼくもみうちゃんだいすきだよ!!」
「みう、しょうたくんのおよめさんになるの」
「うん!やくそくしたもんね!!」

ねー?って二人で顔を合わせとる。しょうたママとワシは、ただ笑うしかなかった。

しょうたくんのこと、入園式の時にちらっと見ただけやからよう覚えてへん。
どんなヤツやったっけ?!見に行ったろ!!その思いだけでついてきたら、
めっちゃおませなキスシーンを目撃するハメになってもーた。

花嫁の父って、こんな気持ちなんやろなぁ・・・・・。

その後、しょうたママとワシの周りには、めっちゃ気まずい空気が流れとった。

美羽、堪忍してぇなー。はよ帰ろー?(T_T)

この先、この二人にはどんな未来が??20年後につづく。
(公園の中心で「つづかねーよ!!」と叫びたい花嫁の父(T_T))





BGM : ポルノグラフィティ 「ジューンブライダー」