「絆」番外編  〜真夏の夜のミステリー〜


外は台風。夜半から強くなった風が、時々窓を軋ませるような音を立てている。
その晩、私はなぜか寝つかれなかったけれど、ふと吸い込まれるように眠りについて
しばらく経った時のことだ。

何かの気配に目が覚めかかった。私の足元に誰かが立っている?
トイレに起きた彼かな?そう思った次の瞬間・・・
「?!」
その影のような誰かが私のベッドの足元に飛び乗り、跳ねながらベッドを揺らし始めたのだ。
私のからだはベッドのスプリングと共に弾んでいる。
同時に、足元からぞぞぞっと金縛りが走り、身動きが取れない。

ものの1分も続かなかっただろうけれど、その金縛りが私の足元から頭へと抜けるように
からだを滑り上がり、やがておさまった。
まるで、誰かが枕元の窓から外に出て行ったかのように・・・。

その時、何かに気づいたかのごとく、ベビーベッドで寝ている美羽がうわーんと
一泣きした。
あまりの恐怖に震えが止まらなかった。思わず時計を見ると、ちょうど夜中の3時だった。

「ねぇ、ねぇ!!ちょっと・・・起きてよ・・・?」
隣りで眠っている彼を起こしたけれど、「ううーん」と言いながら寝返りを打っただけ。
外は風がますます強く吹き荒れ、窓の軋み音は、私をなおさら恐怖へと誘う。

私は堪え切れず、隣りのリビングに行き、テレビを付けた。
テレビ画面には、台風情報とそれに似つかわしくないコミカルなBGMが流れている。
けれど、画面など見えてはいない。頭の中はさっきの理解しがたいできごとで
埋め尽くされている。

すると・・・(大丈夫)という声が聴こえたような気がした。
「?!」
それは声というよりもテレパシーのように空気を伝わってきた。
背中に何かを感じ、おそるおそる振り返ると、そこにはかわいい女の子が・・・

「きゃーーーーーーっ!!」
私はそのままリビングの床に倒れ込んだ。


「・・・な・・・夏菜・・・おい?夏菜?」
どのくらい経ったのだろう?私を呼ぶ彼の声に目が覚めた。
見上げると、彼が私の顔を覗き込んでいる。
「オマエ、こんなとこで寝たら風邪引くで?」

気がついて見回すと、私はベッドにもたれながら眠っていたかのようだった。
窓の外はうっすらと明るくなっている。
「目ェ覚めてトイレ行こ思たら、オマエがそんなとこにおるからつまずきそうに
 なってん・・・」
あくびしながら、彼は言う。
おかしい、私は確かにリビングで倒れたはず・・・。なのにどうしてここにいるんだろう?
誰かが私を運んだ?!

「・・・ねぇ、誰かそのへんにいない・・・?」
私はおそるおそる尋ねてみる。
「なにアホなこと言うてんねんなー?まだ寝ぼけとるんとちゃうかぁ?ほら、立って!!」
彼は手を取り、私を立ち上がらせる。
思わず涙がこみ上げてきた。
「??なに泣いてんねん?!なんや怖い夢でも見たんか?」
「うん・・・怖かった・・・」
彼の胸に顔をうずめる。

事の顛末を彼に話して聞かせると、彼は半分笑ってこう言った。
「どっかから野良猫でも入ってきたんとちゃう?」
「そんなわけないでしょ!?」
「野良猫、野良猫!」
「・・・・・わかった、あなたも怖いんでしょ?」
「べ、別に・・・」

その時、倒れる前に確かに目にした女の子のことを思い出した。
そうだよー、あの子だってきっと・・・・・!!背筋が寒くなる。
でも、(大丈夫・・・)って何が大丈夫だったんだろう。
すると、倒れてしまっている間の、あるはずのない記憶が蘇ってくる。
(大丈夫、あの子はいたずらっ子なだけなの)
あの子?
(幼くして命を失った子なんだけど、たまたま通りかかって、幸せそうに眠ってる家族を見て
 うらやましくなったのね。ちょっといたずらしてやろうって思ったらしいの。驚かせて
 ごめんなさいね)
あなた・・誰なの?!
私はその女の子と会話している状態になった。
(私、サーヤです。いつもミュウを見守ってる・・・・・)
あのかわいい女の子は、あのサーヤだったのか・・・。
信じられないようなこの事実を、不思議と疑いもしない自分がいた。

私はふっと我に返った。まるで一瞬時間が止まっていたかのように・・・。

「夏菜?何ぼーっとしてんねん?まだこんな時間や、ほら、寝るで?」
「・・・うん・・・」
私は彼の顔を見た。
「??なんや?」
「・・・手、つないでてもいい?」
「怖がりやなぁ?はいはい、ええですよー?」

怖がりなのはお互いさまな気がするけれど・・・。


真夏の夜のできごと。
夢か現か幻か・・・真実はサーヤだけが知っている。