「絆」 〜マーメイドの涙のしずく〜 



夏休みのお手伝いとして、ママにお庭の水まきをお願いされたので、夕方お水を
まいてたら、フェンスごしにおとなりの影山さんに声をかけられた。

「美羽様、お暑い中、水撒きでいらっしゃいますか。温暖化防止策の一環として
 地球にもやさしくエコ、なりよりでございますね」
「影山さ〜ん。むずかしいことわかんないけど、お手伝いさせられてるだけなの(=_=)」
「お手伝いは大切なお仕事でございますよ。どうか・・・」
「お忘れなきよう、でしょ?」
「はい、おっしゃる通りでございます(^_^)」
「影山さん、うちに何か用があったんじゃないの?」
「さようでございました。シンガポールに行った折のおみやげをお持ちいたしましたので、
エントランスに回らせていただきますね」
 
このクソ暑いのに(あ、『クソ』をつけちゃいけないってママから言われてるんだった(^_^;))、
あいかわらず影山さんはタキシードで、涼しそうな顔しちゃってる。

「今日は、山丘様の奥様は?」
「今、ちょっと買い物行ってる。影山さん、今年もシンガポール行ったの?」
「はい、お嬢様のバカンスにお供した次第で」
「いいなぁ、影山さんもお嬢様も、海外旅行に行けて。あたしなんか一度も行ったこと
 ないよ」
「美羽様もいずれ、大切などなたかとご一緒に行かれることでございましょう」
「だといいんだけど・・・」

影山さんから大きな箱をひとつ、かわいくラッピングされた小さな箱をひとつ受け取った。

「こちらのお箱は、美羽様へ影山からささやかなプレゼントでございます」
「えー?!こんなかわいいのもらっちゃっていいの??またママに怒られちゃうよ」
「大丈夫でございますよ。山丘様の奥様には、わたくしからきちんとお伝えしておきますゆえ」
「あけてもいい?」
「どうぞ」

かわいいラッピングをはずしふたを開けると、なんだろう?貝でできてるのかな?
白くてかわいいだ円形のボックスが入ってた。

「世界には、マーメイドの涙のしずく(*注)と呼ばれる伝説の真珠が存在いたしますとか。
 できましたらその真珠を美羽様に・・・と思ったのでございますが、宝生グループの
 力を以ってしても、なかなかお目にかかれない宝石とのことで」
「そんな高いもの、美羽がもらうすじあいないよ?!」
「ハハハ・・・筋合いない、でございますか?(^^ゞそこで、代わりにと申し上げたら
 失礼なのですが・・・白蝶貝でできましたアクセサリーボックスをプレゼントさせて
 いただこうと思いまして」
「美羽、おもちゃのアクセサリーしか持ってない・・・」
「大切などなたかからいただいたアクセサリーをおしまいくださいませ」
「大切な誰か・・・・・」

まっさきに翔太の顔が浮かんでしまった。

「ねぇ、影山さん」
「なんでございましょう?」
「一緒にいても淋しくなるのはどうして?」
「それは、美羽様が翔太様のことを大切にお想いになっている証に他ならないのでは
 ないかと・・・」
「あたし、翔太ってひとことも言ってないのに・・・?」

影山さんは少し笑いながら、ゆっくりと話してくれた。

「人は所詮、ひとりで生まれひとりで死んでゆく生き物。決して孤独からは逃れられない
 のでございます。だからこそ、寄り添い合いたい、そう思うのではないでしょうか」

影山さんの言葉には、どうして力があるんだろう?どうしてこんなに心にしみこむんだろう?
なんだか涙が出てきちゃった・・・・・。

「美羽様の翔太様へのその想い、どうかお忘れなきよう・・・・・。
 あぁ、また長居をしてしまいました。これにて失礼いたします。お父様お母様にも
 どうぞよろしくお伝えくださいませ」

影山さんはおうちに帰って行った。

いつかあたしも翔太と一緒に、どこかへ旅をするのかなぁ?
ものすごく遠い未来の気がする。もしかしたらその未来は来ないかもしれない。
でも、いつか一緒に行けると心の中で信じていたい・・・。

あ、ママが帰ってきた。

「途中で翔太くんに会ったわよ。『今夜電話してもいいですか?』って。いいよって
 答えておいたわ(^_^)」
「ありがとう、ママ!!」

遠い未来も大切だけど、あたしはまだまだ今だけ大切に生きていたい。






(*注) : マーメイドの涙のしずくは実在いたしません。フィクションでございます。


勝手にすぺしゃるさんくす : 「映画 謎解きはディナーのあとで」の影山様

勝手にBGM : ARASHI 「迷宮ラブソング」