「絆」 〜屋上で見た花火〜
「めっちゃええスタイルしとるなぁー・・・」

ソファにごろんと寝ころんで、テレビを見ながら、しかもオシリをぼりぼりかいて、彼が言った。
私のアンテナがピクッと動く。

「今、なんて言った?」
「え?めっちゃええスタイルや、て・・・」
「そーだよねぇ?どーせ私は出るべきとこは貧弱で、出なくてええとこは出てるんやからねぇ?」

彼が、しまった・・・という顔をした。でも時すでに遅し。

「スタイルだけじゃー、女はつとまんねーんだよーっ!!」

某芸人のように、思わずキッチンでお玉を床にたたきつけそうになる私。

「んな、モデルの人と張りおうてもしゃーないやん?」

頼りなさそうに、困ったように笑う彼。ひたすらフォローに回ろうとしているのが一目瞭然。

「そーよねー、あの夜、花火見なかったら出逢わんでも済んだんやもんね!」

思わず勢いで言ってしまった。

「・・・ワシと出逢うたこと、後悔しとるんか?」

暑かったあの夜。アイスキャンデーでも食べません?って言った彼。
彼の会社の屋上で、一緒に花火を見たあの夜。

「ごめん・・・」

なぜだか涙が溢れ出した。

「後悔なんてしてないよ・・・ごめんね・・・」
「ワシもそんなん一度も思ったことないで?」
「・・・ごめんね・・・」
「もうええて」

涙が止まらなかった。
私は彼がいなかったら、二度とあの花火を見れなかった、きっと。

「今年も浴衣着て、花火見に行こな」
「うん」


「ママー・・・」

美羽が起き出してきた。

「どうしたの?」
「・・・おしっこ・・・」
「はいはい」

美羽を連れてトイレへ。

「ママ?どーしたの?おめめあかいよ?」
「なんでもないよ」
「パパ!ママいじめたら、めっ、だよっ!」
「いじめてへんて!」

パパを叱る美羽、たくましい・・・。

「パパとママは仲良しやで?なぁ?ママ?」
「そうだよ、美羽」
「パパはママがすきなの?」
「当たり前やろ?」

ふーん、と美羽がうなずいたと思ったら・・・

「すきだったらちゅうするんだよ?」

え??まさか美羽・・・私は念のため聞いてみた。

「美羽、翔太くんにちゅうしたの?」
「うん」
「・・・!!」
「だってすきだもん、すきなひとはちゅうしてるもん、てれびで」
「ちゅうしてるもんって・・・」

めまいがしそうになる私の横で、彼は固まっていた。

「パパかて美羽にされたことないのに・・・しょうたくんてどこのどいつやー?!」

パパ、落ち着け!
恐るべし3歳児。どこで何を見ているかわからない。

「だから、パパとママもすきだったらちゅうするの!」

私は目を閉じた。彼は私のほっぺたにキスをした。

「ほーら、仲良しやろ?」
「うん・・・でもほんとはおくちにするんだよー?」

今度は私が固まった。

「美羽、翔太くんのお口にしたんじゃないよねぇ?」
「したよ」

・・・・・あぁぁぁ、いったいどこで何を見てるのぉぉぉっ?!
それにあの初々しいあなたたち、いつの間にそんなに接近したの?!

「美羽、パパにもちゅうしてやー?」
「や!パパはパパだもん」
「なんでやねん?!」

パパ、無念。

「だいじょうぶ、パパにはママがしてあげるから」

私は目を閉じて、彼の唇にそっとキスをした。
目を閉じたら・・・あの夜の花火が目の前に蘇ってきた。
私は彼と出逢えたんだ、あの花火で・・・。


「さ、寝よか」
「そうね、もう遅いからね」
「ねよかぁ!」

美羽がまたパパのマネをして言った。


美羽が寝たら・・・もう一度、そっと彼にキスしたい・・・。




BGM : aiko 「花火」