「絆」 〜さくらのカルテ〜



東京にも桜の開花が発表された。つい先日までの気温が嘘のようだ。
汗ばむほどの気温に、近所の河津桜も一気に咲ききって、すぐに散ってしまうだろう。
我が庭の桜のつぼみも・・・もうすぐほころびそうにふくらんでいる。

散歩日和というよりはむしろ、暑い。急激な気温上昇に、からだがついてゆかない。
汗を拭きながら町中を歩いていると、白衣をひるがえして走っていく男の人と
すれ違った。
あれは以前、美羽もお世話になった東町医院の・・・

「栗原先生?」
私は振り返って呼び止めてしまった。

「はい?」
先生は乱れた髪も気にせずに振り返った。

「先生、お久しぶりです。以前往診していただきました、山丘です」
「あ・・・。お嬢さんでしたよね?発熱で・・・」
「ずいぶん前ですけど、先生覚えていてくださったんですね」
「まぁ一応・・・」
少しはにかみながら、先生は答えた。

「ごめんなさい、お急ぎですよね?呼び止めてしまいまして・・・」
「いえ。具合の悪い時は何時でもかまいません、またお呼びください」
「ありがとうございます」
「あ!!あぁ、何たる失態!!」
先生は頭を押さえた。

「はい・・・??」
「しばしの間、若干・・・何時でもいうわけにはいかぬ・・・いやいや、私は医師だ、
 それゆえ・・・・・・いや、その前に人間であるのだから・・・・・・・・・・・・やはり
 申し訳ない!!」
「そんな・・・」
「実は・・・我が子が誕生しまして・・・」
「まぁ☆おめでとうございます♪だったら少しは奥様のそばにいてあげてください。
 何時でも往診、なんてなさらずに」
「いや・・・それでは・・・申し訳ない!!」
「いいんですよ、そういう時があっても」
「そういうものでしょうか?いや・・」
「奥様のところに戻られるんでしょ?早く行ってあげてください☆」
「はぁ、それでは失礼します!!!」

穏やかで落ち着いた感じの先生が、珍しくあたふたと走って行った。
栗原先生にもお子さんが・・・もうお父さんなんだ。
ハル・・・あ、いや春だなぁ・・・。なんだか幸せがたくさんやってきそうな気がする。

美羽も無事、小学校を卒業した。生まれてから12年も経ったなんて・・・
月日の流れは意外と早い。そして、パパも私も以前にも増して涙もろくなった。
卒業式では、父母そろってオイオイ泣いてしまい、あとで美羽に「はずかしかったよ」と
言われてしまった。(^_^;)

そういえば、栗原先生も以前お会いした時より、ずいぶんと頼りがいのある風貌に
なってきたような気がする。
なんて言ったら失礼だろうか・・・?(^^ゞ

中町にひっそりたたずむチョコレート屋さんの、素敵なショコラティエは、なぜだか最近
見かけなくなってしまったけど、チョコレートは相変わらずおいしい。
美羽が喜ぶから、帰りにボンボンショコラでも買って帰ろう。(^_^)





勝手にすぺしゃるさんくす : 一止先生&爽太くん