「絆」 〜たからもの〜



「美羽、お昼だよー」
ママが下で呼んでる。

「はーい」
あたしは返事をするけど、食欲がない。

今日もママは、汗だくでごはんを作ってくれた。
でも・・・なんか食欲ないんだ・・・。

「ごちそうさま・・・」
「あら、美羽、残してるじゃない。具合でも悪いの?」
「うぅん。あんまりおなかすいてないだけだよ」

ママがちょっと心配そうな顔をしてる。
「調子悪かったら、早く言いなさいね?」
「はーい」

あたしはソファにごろんとなった。なんにもする気にならないよ。

どうしてそうなったのか・・・昨日図書館に行ってからだ。

大好きなシリーズの本を読んで、ついでに感想文も書いちゃえって
思ってたんだ。

机が並ぶ3階に上がった時、翔太がすわってるのが見えた。
なーんだ、あいつも来てたのか、と声をかけようとした時・・・
隣に女の子がすわった。学年一かわいくて、バレエも習ってて、成績もいい
誰にでもやさしい子。
二人して、にこにこしながらしゃべってる。

あたしは、思わず本棚のかげにかくれた。なんで?なんであたしがかくれるの?
胸がドキドキして苦しくなって、あわてて階段をかけ下りた。

本も借りずに、あたしは走って帰った。走りながら、なぜか悲しい気持ちになって
涙が出そうになった。


翔太とは小さい頃からずっと一緒だった。クラスが別になっても、女の子同士で
遊ぶことが多くなっても、やっぱり友達だということはかわらなかった。

あたしよりちょっとだけ背が高くなった翔太。隣にすわってた子も、
いつも見るのよりずっとかわいかった。
あたしのピンクのちょっとよれよれのTシャツとショーパンのカッコが、
ものすごくくやしかった。


何年も何年も翔太のこと見てきたのに・・・。
あたしがいちばん翔太のこと知ってたのに・・・。


ソファに顔をおしつけながら、あたしは泣いてた。
苦しくて、苦しくて、たまらなくて。
大切なものをなくしてしまった気がして。


いつのまにか、ママがそばにすわって、あたしの頭をなでてくれてた。

「ママ・・・・・しょうたが・・・・」

ママはずっと頭をなでてくれてた。

「・・・しょうたが・・・みうからはなれていっちゃう・・・・・」
「大丈夫。離れていかないよ。大切なたからものなんだから。
 これからもずっと、美羽のココロの中にもいるんだよ」
「ママ・・・・・・・」

ちょっとのあいだ、ママに頭をなでてもらいながら、ママのひざで泣いた。
もうこれ以上、涙なんか出なくなっちゃえってくらい。


「・・・ママ」
「うん?」
「このこと、パパにはないしょね?」
「わかったわかった」


電話がprrrrと鳴った。

「もしもし、あ、翔太」
「明日、宿題一緒にやらない?」
「いいよ」


あたしはふりかえって、ママに向かってVサインした。






なんとなくBGM : aiko 「星のない世界」