「絆」 〜世にもビミョーなハーモニー〜
「どべんでぇ、だがだがよぐだらだぐってぇ・・・へぇっくしょいっ!あ゛ー・・・」
(通訳:ごめんねぇ、なかなかよくならなくってぇ)
「ええから寝ときやー。後片付けはワシがやっとくから」

夏菜が風邪でダウンした。
ふだんあまり風邪で寝込むことはないアイツ、今回のはしつこいらしいわ。
ああ、またクシャミ10回も続けてしとる。
枕もとにティッシュの山。鼻の下ボロボロやなー。見てへんことにしたろ・・・。

「今日もおとなしゅう寝とくんやで?」
「う゛ん」
「まるで子供やな」
ワシが笑うと
「う゛ん」
と、えらく素直に布団にもぐり込んだ。
最近やたらきっつうなって、デカすぎる口きいとったとこあったし、しばらく風邪でもええかも。
っていうのんは夏菜にはナイショやけど。


ベビーカーに美羽を乗せて、散歩がてら買い物に出た。
ティッシュの消費がはなはだしいから買っとこ。
たまにはソフトタッチの高いやつ買うてやろうか。
今夜もあったかいもんがええなぁ。こたつも出したことやし、鍋にでもして、最後に卵入れて
ぞうすいにでもするかぁ。

スーパーに入って鍋の材料を見て回る。
「だー!パパーーーーッ!まんま!」
美羽が目ざとく試食コーナーを見つけた!ようじにささったりんご。
「オマエ、まだ歯生えたばっかやん。食えるんかー?」
「まんま!」
「りんごやで?」
「じ・・んご!!」
ようじにささったやつを、おそるおそる口元に持っていくと、パクッ!!
食いつきええなぁ。(笑)
まだ前歯しか生えてへんのに、必死で噛んで飲み込んでもうた。

「じんご!」
「試食はみんな1個だけや。おしまい!」
「じんごーーー!!」
「終わり終わり」
「じんごぉぉーーーーーーー!!」
美羽の悲痛な叫びを残したまま、あわててベビーカーを走らせる。

消化がええもんにしとこ。白菜、それから・・・ネギはあったかな?
えのきと・・・春菊!ワシこれが好きなんやー!鍋には欠かせんわ!
それと・・・やっぱ鶏だんごがええかなぁ?
鶏のひき肉と、あ、おろししょうがも入れんとアカン。

精肉コーナーに行くと、う、今度はウィンナーの試食が!
「パパッ!まんま!」
「もう終わりやて!」
「パパッ、こえっ!!」
最後に1個だけ残っとったウィンナーをまたも目ざとく見つけた。
「オイ・・・・・」
しかたなくウィンナーを口元に運んでやると・・・パクッ!!
オマエ、これやったらウチで食わせとらんみたいやないかぁ?!
「はい、おしまいや」
「ん」
今度は本人も満足そうにうなずいた。やれやれ・・・。

ごっそりと鍋材料の入ったスーパーの袋とティッシュの箱をベビーカーに引っ掛けて、
帰り道を急ぐ。
こういう荷物が多い時、ベビーカーって便利やな。
折りたたむのんはちょっとめんどうやけど。


「ただいまー!」
「まー!」
美羽がワシのマネして言うとる。
「ほがえ゛り゛(おかえり)」
赤いはんてんを羽織り、マスクをしたパッと見、あやしいいでたちの夏菜が出てきた。
「寝ときや言うたのに」
「う゛ん、いばおぎだど(うん、今起きたの)」
「今夜は鍋や」
まるでどっかのCMみたいなセリフやな。
「だりら゛どう(ありがとう)」
「何言うてんねん。ワシがこたつで鍋食いたいからやでー?」
「ばだでれぢゃっでぇー!(また照れちゃってぇー!)」
「ええから言うこと聞いておとなしく寝なさい!」
「だーい!(はーい!)」
えらくでっかい子供やなぁ。

さてと!ワシは久しぶりに台所に立つ。
シュンシュンとやかんから湯気が立ち、トントンというワシの包丁の音に混じって、
時折聞こえる「ズルズル・・へっくしょい」が、ビミョーなハーモニーを奏でとるわ。(笑)