「ぬくもり」 ~Be with You~


どのくらい眠ってたんだろう?もうずっと朝陽を見ていないような気がする。
なんて・・・朝陽がのぼる直前にベッドに入って、昼過ぎまで眠る生活が続いてるからかもしれない。
私、ちょっと今悩んでる。体調も悪くて仕事休んでる。このままでいいのかなって思い悩んで、
人生は、今は、一度きりしかないんだから自分のやりたいことやろうって決めた。
そのうち、会社やめるかもしれない。でも不安でたまらない。
こんなんじゃ瞬介にも顔合わせられない。そうこう言ってるうちに日々が過ぎ、
彼も原稿の追い込みで忙しくなっていた・・・。

会うどころじゃない。
私たちはしばらくの間、必然的に離れることになった・・・。

そんな時、本屋で瞬介の書いた新刊が目に止まった。
うまい言葉が見つからないけれど、ああ、彼らしい・・・って真っ先に思った。
なぜか涙が出て止まらなかった。
私は彼のこういうところを好きになったんだ・・・。

会いたい・・・!!

顔も合わせられないなんて理屈、もう自分の中で成り立たないよ。
理屈なんかじゃない、会いたいだけ。
彼と片時も離れたくないだけ。

突然ケータイが鳴った、彼だ・・・。

「もしもしー?」
明るい声が私の胸を切なくしめつける。
「・・・はい・・・」
「あ・・?あの?」
「私・・・」
「な、なんだ、いつもと違う出かたするから、まちがったかと思ったよ」
「・・・元気だった?風邪ひいて・・・るね?ちょっと鼻声?」
「最近鼻声抜けないんだよ。しょっちゅう風邪ひいてるかもしれないなぁ。
栞こそ元気だった?」
「・・元気・・ないよ。足りないの」
「なに?寝不足?」
「・・・瞬介が足りない」
「・・・・・バカだなぁ、TELでも何でもすればいいのにー?」
「少しだけ離れてみようと思ったの。いっつもあなたにべったりしすぎてたし、
自分の仕事のことも、真剣に考えてみたいと思ってたし・・・でもどこかでムリしてたの。
むりやりあなたのことを頭の隅に追いやろうとしてた・・・」
「・・・・・」
「でもできなかった。電車乗ってても、お風呂入ってても考えてる。
それに一瞬で崩れ落ちちゃった・・・瞬介の本開いたら・・・」
「あれ・・・わかってくれた?」
「ん?」
「オレのせいいっぱいの想いなんだ。栞へのありったけの想いこめて書いたんだよ」
「!!!」
「会いたいよ・・・」
「私も・・!!」

真夜中の街を私は走った。瞬介が部屋まで来るのを待ちきれずに・・・。
途中の公園にさしかかる角で、彼の自転車が向こうから走ってくるのが見えた。

彼は自転車を倒すくらいの勢いで、私に走り寄った。
私は彼の胸に飛び込んだ。
「栞」と呼び捨てで初めて呼んでくれた人。その人が私の名を連呼する。
私も「瞬介・・・」と言ったきり、それ以上は口にできなかった。

このぬくもり以外、なんにもいらない・・・。
あなた以上の人なんていないの・・・!!

自転車のあなたの背中にきゅっとしがみついて、ふたりで部屋に帰ろう。
この切なさを忘れずに生きてゆく。愛するあなたとともに・・・。




BGM : ポルノグラフィティ 「夜明けまえには」