「ぬくもり」 〜カウントダウン2003→2004〜


赤と緑のコントラストがあんなに映えて見えたポインセチア、クリスマスが過ぎると
どこか色褪せて見えてしまうのはなぜだろう?
赤い実をふさふさとつけたセンリョウをフラワーベースにアレンジして、
私はうーんと大きく伸びをした。

今年は仕事が押したせいもあって、田舎には何となく帰りそびれてしまった。
帰れなかった理由は他にもあるのだけれど。

あと30分もすれば新しい年を迎える。

すると、テーブルの上の携帯が、部屋の静けさと相反するようにブルブルと震え出した。
点滅する光が、誰からの電話であるかを知らせている。

「もしもし?」
「もしもーし?お元気ですか?栞さん」
「それはそっくりそのままお返しします、瞬介さん」
「・・・・・元気じゃないです・・・締め切りとっくに過ぎてます」
「それじゃ、電話してるヒマないじゃないですか?」
「そうですね・・・・・」

ひとしきり他人行儀な会話を交わした後、「栞ーーーーー!!」と瞬介が情けない声を上げる。
「そんな甘えた声を出したって、締め切りは待ってくれないよ?」
「冷たいなぁ、栞・・・2003年ももうすぐ終わるっていうのに。
 カウントダウンは原稿と共に、か・・・」
「瞬介が早く原稿を上げなかったからでしょ?!」

私はほんの少し怒っていた。

「もーーーーっ、私だってひとりでカウントダウンしたくないよ!」
「だからせめて電話で、一緒に過ごそうとしてるじゃないかよ!」
「なんで年の瀬のこんな押し迫った時間に、電話でケンカしてなきゃなんないの?」
「そりゃこっちのセリフだろ!?」

瞬介もかなり焦っているせいか、口調が荒い。

「ごめん・・・」
しぼんだ風船のように、とたんにしょぼんとした声が続いた。
そんなしおれた声を聴いたら、原稿の邪魔しに行きたくなっちゃうじゃない。

チェストの上の目覚まし時計を見ると、それは2004年まであと20分を告げている。

「待ってて!!」
思わず私は言っていた。
「・・栞・・・?」
「だから待ってて!!」
私はそれだけ言って、勝手に電話を切った。



私は彼の部屋に向かって、必死で自転車をこぎ続ける。
いつか同じようなことがあったっけ・・・あの時は瞬介が私へと自転車を走らせていた。

瞬介のマンションの自転車置き場に、転がすような勢いで無造作に自転車を置くと、
部屋めざして私は駆けてゆく。
階段下で待っている彼の姿が見える!・・・・・瞬介!!

私は迷わずその温かい胸に飛び込んでいた。


2003→2004
ふたりきり・・・KissとHugで迎える新しい年。
”目の前の原稿は、せめて・・・せめて1時間は見ないことにしよう”
耳元で瞬介がつぶやいた。