「ぬくもり」 〜ラッキー・サボタージュ〜


朝からの会議が、昼休みに突入しているにも関わらず続いたままで、
私の肩は鉄板のように凝り固まっていた。
途中、自分でツボを押して凝りをやわらげていたのだが、あまりの痛さに
思わず首をポキポキと鳴らしてしまい、一瞬、会議室が静まり返る。

私はといえば・・・我に返った。

「紅一点の高坂(たかさか)君もお疲れのようだし、そろそろ一旦休みを入れよう」
とイヤミを言われながらも、ようやく遅めのランチにたどり着くことができた。

社食の窓際の席を陣取った。ここはビルの20Fにあり、我が社唯一の誇れる場所。
(などと言ったら社長に怒られるだろう)
眺望とメニューの多さに、ごくたまにだが、ちょっとした取材もやって来るほどだ。

いつものせわしないベルトコンベア式のランチとは違い、窓からの景色も心なしか
美しく見えるよう。
連なるビル群を縫って這う幹線道路の、車も歩行者も、まるでジオラマみたいに
かわいらしく見えてくる。
天空の城なんとか、っていうアニメがあったけど、ここは”天空食堂・サボタージュ”って
感じかな?(笑)

空が澄んでる・・・。

ミニトーストが付いたランチパスタを頼んだ。今日は、鷹の爪の辛味がポイントの
スープパスタっぽいペンネ。
オフィスの中は相変わらず空調が効いているから、ドリンクはホットのミルクティーにした。
少し大きめの取り立ててかわいくもない白いカップを、澄んだ青空に向け掲げてみる。

Cheers!!

すると、たまたま後ろを通りかかった先輩に、クスッと笑われてしまった。
思わず身体が小さくなるほど気恥ずかしくなる。

「高坂さんって詩人ね」
「・・いえ・・・あの、見なかったことにしてやってください・・・」
「いいじゃない。そんなゆとりって必要よ。綺麗なものを見て、美味しいもの食べて・・・
 さてはいい恋でもしているな?」
「そんな・・・」
「詩人なのは彼氏の影響かな?」
「え・・あ・・・・・まぁ・・・・・・」
「あははっ、ごめんなさい。立ち入ったこと聞いちゃって」
「いえ・・・」

じゃ!と手を軽く振って、シャンと背筋を伸ばし、先輩は去って行った。
カツンカツンというヒールの音が、いつまでもフロアに響き渡っていた。

カッコいいなぁ。私もあんな年齢の取り方してみたい。
何もかも手に入れた人の大人の余裕。着ているものもさり気なくブランドだし。

でも・・・私はノーブランドでも何もかも手に入らなくてもいいや。
瞬介のこころとぬくもりがいつもそばにあるから。
そして、こんなゆとりが目の前に時々、転がっているならね。

「高坂君!」
部長に背中から声を掛けられ、「はい!」と立ち上がる。
午後の仕事もきっとヘヴィー。
でも今日の私はどことなくライトな気分で、オフィスの会議室に戻れそう。

がんばりまっす!瞬介☆