「ぬくもり」 〜リラックスタイム〜


午後の陽射しが、ガラス張りの壁に当たっている。
それは屈折して、カフェのテーブルに光のプリズムを放っていた。
周囲の会話が、店内に流れる音楽と相まって、ほどよい心地よさをもたらしてくれる。
気温はそこそこだが、風がない分、肌に当たる空気は昨日より暖かいのだろう。
街行く人々の足取りの遅さが、それを告げていた。

窓際の席で一瞬、うたたねをしてしまいそうになる。
このところ忙しくて、こんな風にのんびりカフェでコーヒーなんて飲んだことがなかった。



隣席の女の子たちの会話が耳に入ってしまった。

「元カレのことなんだけどさ・・・」
「うん?」
「まだ電話番号消せないの・・・」
「えーっ?だってもう彼女いるんでしょうーーっ?」
「だって・・・忘れたくないんだもの」
「もうっ、消しちゃいなよ、この場で!!」
「・・・うん・・・」

女の子はしぶしぶ携帯を手にしているようだ。

「削除しますか?Yes or No?」
「はいっ、Yes!Yesだよ!」
ピッピッ・・・
「あーぁ、削除しちゃったよー・・・」
「それでいいの!」

強気な彼女(仮にA子ちゃんとしておこう)と
及び腰な彼女(B子ちゃん)。
が、誰でもそうだけれど、他人のことは何かと
強気で言えるものだ。



「それよりそっちこそどうなのよ?」
「えぇ〜・・・うん・・・もらったサイフ、あれどうしよう?」

立場逆転か?

「処理に困るよね」
「燃やしちゃおうか?」
強気なA子ちゃんの大胆な発言。

「燃やすのぉ?!」
僕も思わず、及び腰B子ちゃんと同時に声を上げそうになる。


どうしても取っておきたい想い出はあるけれど、モノとなると
問題は難しい。
これは男女問わず、永遠のテーマかもしれないな。



それにしても、どんな時にも恋の悩みは尽きないものだ。


ふと、次の小説に使えそうな一文が思い浮かんだ。
”そのたった4文字を告げるには、勇気がなさすぎたの”



その時、ブルブルと僕の携帯が震え出す。栞からメールだ。

「今リラックスタイムかな? 私も今、自販機の前で休憩中。
 課長にお目玉をくらっちゃった・・・ちょっと落ち込んでる。
 この缶コーヒー飲み終わったら戻ります。名誉挽回!
 それじゃ、またね。  栞」

僕のリラックスタイムは、カフェでのくつろぎだけじゃない。
栞、きみからのこういうメールが何よりのリラックスだったりするんだ。



さ、帰って次作品の構想でも練るとするか。



傾き始めた冬の陽射しが、カフェのシェードを照らしていた。