「ぬくもり」 〜 瞬介のダイアリー 05/12/26 〜


今年のクリスマスは史上最悪だった。以下、その一部始終を綴ることにする。


連載の締め切りに追われ、僕は思わずデスクで眠りこけてしまった。
それが悲劇の始まり。
気づいた時には風邪を引いていた。やけに寒気がするので、熱を計ったら38度6分。
原稿は半分ほどしか上がっていない。
誰だ?!こんなクソ忙しい時期に締め切りを設定したのは?!

正月はのんびりしたいからと、クリスマスくらいまでには仕上げますと言ったのは、
他でもない、僕自身だった・・・。

あああっ・・・何故?!

原稿を書こうにも手が動いてくれない。


Trrrr・・・・・キョーフの電話のベル!!何だ?!担当から催促か?!
おそるおそる「もしもし」と出てみる僕。

「もしもし?私だけど」

あぁ、栞の声が天使の声のように聴こえる。(天使の声って聴いたことないけど)

「原稿進んでる?」

電話の内容は担当並みだけど。

「それなんだけどさ・・・悪いけど、ちょっと来てくれないかな・・・」
「え、原稿上げるんでしょ?」
「だから頼む・・・」
「もしかしてまたデスクで寝ちゃったの?!いっつも言ってるじゃない、風邪引くから
 ちゃんとベッドで寝なさいって」

まるで母親のようだ。

アホと言われようがもうどうだっていい。

「とにかく来てくれーーー!!」
「はいはい、先生、ちょっと待っててくださいね」

半分呆れてるんだろう、栞の電話は切れた。


30分ほど経ったろうか、ガチャ!!とドアの開く音がして、スーパーの袋をぶら下げた
栞が入ってきた。
入ってくるなり、僕のおでこに手を当てる。

「やだ!こんなに熱出てる!!早く寝て!」
「はい・・・」

まるで子供のようだ。

「で、原稿はどこまで?」
「半分・・・」
「わかった。じゃ、まずお昼ね」

栞はキッチンに立った。
この匂いは・・・卵雑炊だな。って、風邪の時はたいていそうなんだけど。

栞の作った雑炊をフーフーしながら食べた、ことにしておこう。
正確には食べさせてもらった。(^_^;)

「風邪薬ある?」
「たぶん」
「とりあえずそれ飲んで、おとなしく寝てて」
「はい・・・」
「原稿のプロットは?」
「デスクの上にある」
「わかった、私が代わりにPC打つから。瞬介は文章言って」
「はい・・・」
「上がった分だけFAXしとくよ?」
「頼む」

栞に出逢ってから4年半。今では担当並みに僕のサポートをこなす彼女。
頭が上がらない。足向けて寝られない。


結局彼女は、丸1日、僕の代わりにキーボードを打ち続けた。
最後のFAXを送り終わった頃には、クリスマスも終わろうとしていた。

おかげで僕の熱は下がった。

「ごめん、栞にやらせてしまって」
「いいわよ、私、瞬介のゴーストライターだもん」
「ゴーストライターじゃねぇだろ?!」
「ジョーダンよ。ほらまだおとなしく寝てて。私帰るね。明日、あ、もう今日か、
 仕事だから」
「ごめん、こんなクリスマスになっちゃって」
「うん、このお返しは・・・10倍くらいにして返してもらおうかなぁ?」

不敵な笑みの栞に、僕はビクッとする。10倍って何だ?!

「お正月は初詣行こうね?」

僕は心の焦りを悟られないように、あわてて言った。

「うん。じゃ、お賽銭はずんでお願いしなきゃ」
「何を?」
「ナイショ」

またも不敵な笑みを浮かべて、栞は言った。

「じゃね、お大事に!!」
「ありがとう、助かったよ。栞もゆっくり休めよ?」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だから」

タクシーを呼んで、真夜中に栞は帰った。


出逢った頃と何も変わらない僕(たぶん)と、たくましくなっていく栞。
女って強いな。

”そうよ、母になる生き物だもん”

どこからか栞の声が聴こえたような気がした。
てことは、栞の願いって・・・・・?


つづーく!!(パクるんじゃねぇよ(-_-;))




BGM : ポルノグラフィティ 「Hard Days, Holy Night」