「ぬくもり」 〜天上より君へ〜


               僕は今、空の上でこれを書いている。

               担当者の同行なしで、1週間の取材旅行に出かけたけれど、
               やっぱり空路は苦手だ。
               気流の関係で機体がひどく揺れると、嫌な気分になる。
               だいたい、地に足がついていないという状態が不安でたまらない。
               あ、僕みたいな駆け出しのモノ書きも、もしかしたら地に足がついているとは
               言いがたいか・・・?

               あいにく窓の外は雲の帯が広がっている。
               昔見た名作アニメの主人公のように、ふわりと飛び乗れそうなほど、ぶ厚い雲だ。
               こんな空路嫌いの僕でも、海岸線が見えるのを楽しみにしていたというのに、
               視界に入るのはひたすらに白。

               あきらめて視線を機内に戻すと、スチュワーデスさんが「お飲み物はいかがですか?」と
               微笑んでいた。
               「じゃ」とコーヒーをもらうけれど、機体が微妙に揺れ始めて、なんだか飲みにくい。
               さっきのスチュワーデスさん、きれいな人だったな。
               と、これは書かずにおこう。

               雲が薄れ始め、少しずつ陸地が見えてきた。着陸が近い。

               コンビナートに囲まれた海はにごり、空はどことなくうすら白い。
               どんなに渋滞がひどく、大気が汚染されていようと、ここはやっぱり僕のふるさとだ。
               東京。
               君の待つ、僕の住む街。

               いつでもにぎわう海浜公園上空を横切ると、やがて一筋の道が見えてくる。
               どことなくグレーがかった空を映す水面にも、陽光がキラキラとちりばめられて、
               銀紙のように輝く。
               「おみやげはなに?」と無邪気に笑う君の声が聴こえる気がした。

               天上より君へ。
               おみやげを抱えて、もうすぐたどり着くよ。
               ほら、もうすぐ。