「ぬくもり」 〜麗しのジェニファーへ〜



毎年年末年始、ばたばたする僕だが、今年もそうだ。

危うく昨年末に仕事することは逃れたけど、今年は年始早々
締め切りが待っている。


そして僕の横では、担当と同レベルの能力を持つ、栞という女が
原稿の上がるのを待っている。

今年は雑誌の連載コラムも始まってしまった。毎月必ず締め切りが来る。

毎度毎度、そんなにネタがあるわけもなく。

こういう時に限って、どうでもいいようなタイトルやら文章が浮かんでしまう。

今日の栞はやけにめかしこんでいる。

ブロンドとまではいかないが、髪もほどよいカラーリング、
朝から頑張って巻いたのか、毛先はくるんとカール。

これはエビちゃんを意識してるんだろうか?


「なに?なに見てるの?」

「いや、別に・・・」

「あなたが見るのはこっちじゃないでしょ?こーれー!」

そう言って栞は、何も書かれていないPCの液晶画面を指差した。

担当より怖い。


今日の栞を何か言葉で表現するなら・・・麗しのジェニファーってとこだろうか?

麗しのジェニファー??どうしてこんな関係ない言葉が浮かぶんだ?!?

完全に現実逃避だ!!


「ジェニファー、悪いけど飲み物を買ってきてくれないか?」

僕は試しに言ってみた。

「ジェニファーってどなた?」

栞は、何もかもお見通しのような言い方で答えた。

「エビちゃんもかすむくらいの、つやつやでくるくるの髪の君のことだよ」

「大丈夫、買いに行かなくても飲み物は各種取り揃えております、先生」

キッチンにいつの間にやら並んだ、紅茶だのココアだの、さまざまな缶。

「私が買いに行ってる間に、先生が逃亡しては困りますので」

皮肉っぽく栞は笑った。

「早く書かないと、苦しくなるのはあなたなのよ?」

これは彼女でもなく担当でもなく、夏休みの宿題を前にして言う母親のようだ。


今、僕のPCの液晶画面には、悔し紛れなこんな文章が綴られている。

「麗しのジェニファー、どうか僕を叱らないでくれ(-_-;)」



後日談。女性誌連載のタイトルは「麗しのジェニファーへ」に決まった。(^_^;)

「先生、どういう意図でこういうタイトルになさったんですか?」

連載担当にたずねられた。

「読者が若い女性の方なので、その方たちへのメッセージを込めまして」

僕は答えた。

栞は雑誌を手に取って、ふふって笑ってるだろうな。(^_^;)




なんとなくBGM(^_^;) : ポルノグラフィティ 「Mr.ジェロニモ」