「オアシス 2012」 俺がこの店・オアシスでバーテンダーを始めて、10年以上の月日が過ぎた。 あの頃若かった俺も、もう35かよ?そりゃー後輩バーテンダーが入ってくるって もんだな。 去年入ったばかりのバーテンダー・佐々倉も、だいぶこの店に馴染んできた。 「紫狼さん」 「ん?」 「やっぱりあかりさんのピアノがないと淋しいですよね・・・」 「そうだな。まぁしゃーねぇや。タクシードライバーのおやっさんと上手く やってるみてーだし。それにしてもなー、家政婦のミタ?同じあかりでも えれー違いだな!!(爆)」 「ホントに(笑)」 「でさ、ピアノ弾いてくれるヤツ募集したんだよ」 「新しい人、来るんですか?」 「あぁ、今日面接」 「へー、どんな人だろ?」 「そうそう、これが履歴書」 俺は先に送ってもらった履歴書を開いた。 「あれ?このイケメン、なんかどっかで見たような顔じゃねぇ?」 「そう言われてみれば・・・そうですよね・・・?」 ま、こういう顔のヤツ、この近所にもうろうろしてっか!と思いつつ、 俺は履歴書を閉じた。 店の準備中の昼過ぎ、「すいませーん」とそいつはやってきた。 「あのー、面接お願いしてる者ですけど・・・」 「あぁ、君ね?ま、すわって」 俺は奥のテーブル席にそいつを案内した。 佐々倉がグラスを磨きながら、チラッとこっちを見ている。 「えーと、舞駕・・・二郎くん?」 「はい!」 「まいがって苗字珍しいね?」 「はい、よく言われます(^^ゞ」 「ピアノ歴、けっこうあんのね?はい、じゃ決まり!」 「えぇ?!もう採用決定ですか??」 「俺、けっこうこんなもんよ?(笑)ていうかさ、なんかなぁ?やっぱ君 どっかで見たことある気がすんだよなぁ?」 「そうですか?店長さんこそ、歌舞伎町あたりにいませんでした?」 「歌舞伎町ぶらついたことはあるけど?ちょっとその店長ってのはやめてよ? 紫狼でいいから」 「しろうさん、って呼んじゃっていいんですか?」 「おぅ!」 「いいなぁ、紫狼さん。紫に狼ですからねぇ。僕なんか二郎ですよ?」 「あんまり追求しないでくれる?俺だってホントは本名、ベタな四郎なんだよ!」 「え?うちの弟とおんなじ名前だ!うち5人兄弟なんです」 「まさか・・・上、一郎でいちばん下、五郎?」 「はい・・・」 「すげぇ!!(笑)」 あ、いつもの悪い癖で、手叩いて喜んじまった・・・。失礼。 「あ、俺もカウンター出てるけど、もうひとりバーテンダーいるんだ。紹介しとく。 こいつ佐々倉」 「はじめまして。佐々倉です」 「どうも、よろしくお願いします」 「紫狼さん、やっぱりどっかで見かけた顔ですよね?」 「おまえもそう思うだろ?!どこだっけ??」 「あの・・・履歴書の写真、いつもよりはイケメンに写ってるはずなんですけど?」 「?」「??」 「有名な写真スタジオの正宗くんに撮ってもらったので(^_^)v」 「誰だ?それ。佐々倉知ってっか?」 「さぁ??」 「知らないんですか?期待の新人って言われてるフォトグラファー、正宗くんを?」 「知らねーよ」 「あ、なんか聞いたことあるような気が・・・」 佐々倉が突然思い出したように言った。 「でしょ?」 「超イケてるフォトグラファー!!」 「いや、超イケてるかどうかはわかんないですけど」 「・・・・・」 若干ムッとしてる佐々倉。なんでだ? 「まぁいいや。とりあえず1曲披露してもらおうか?」 「はい!」 二郎くんはさっと立ち上がって、ピアノの方に向かった。 立ち振る舞いがさりげなく美しい。端正なマスクに清潔感のあるいでたち。 こいつにはキメキメのカッコさせても着こなせそうな、そんな余裕さえある。 背筋をすっと伸ばし、静かにイスにすわると、繊細な指が鍵盤に置かれ、 軽やかにメロディーが奏でられ始めた。 あかりさんのピアノと歌もいいけど、こいつのピアノもけっこういいな。 なにより、こいつ目当てで女の客増えるかもしんねーぞ?(^_^;) 「練習不足で、この程度しか弾けないんですが、これからまたみっちり 練習します!」 「おぅ、前向きだな。今日から頼むぞ!二郎くん」 「え?今日からですか?」 「あったりめーだろ?ほら、俺のスーツ貸してやっから」 「紫狼さん、それはちょっと二郎くんにはデカいんじゃ・・・?」 「あ、わりーわりー!俺、なんでもゆるーく着ちゃうから。じゃ佐々倉、 おまえの貸してやれよ」 「サイズちょっと合わないかもしれないけど、今日のところは我慢してくれる? ちゃんと用意しておくから」 「はい!ありがとうございます!!」 野郎ばっかの店になっちまったけど、これからはイケメンのバーってのを キャッチフレーズにして、前面に出してくとするか?ハハッ♪ 「紫狼さん、ちょっとこのカクテル、味見していただきたいんですが?」 「おぅ!」 開店時間まであと少しだ。 今夜も心の癒しの場、オアシス開店。あなたも一度来られてみてはいかがですか? なんてな。(^^ゞ こんな言葉遣い、客相手にしか言わねーから、やたら照れるじゃねーかよ!?(^_^;) 勝手にすぺしゃるさんくす : 35歳になった松兄、バーテンダー佐々倉さん、 やっぱりどうしてもピアニストとして出演させた かったので、お名前お借りしました、舞駕二郎さん。 ちなみにご存知ない方のために・・・舞駕二郎とは、 PV「マイガール」の中に出てくる、嵐5人兄弟の 次男坊・櫻井さんの役名です。 |