「オアシス」 〜熱い男〜


最近、新しい客が増えた。
しかし、どうもこの店のイメージと合わないような気がする。

「別の店に行ってくんねーかな・・・」
独り言をつぶやいていると、ふと、純喫茶「マンハッタン」のマスターを思い出した。
まるであそこのマスターみたいだな、こりゃ。
「そういや、行ってねーな、最近。マスターどうしてんだろ?」
またもブツブツつぶやいていると、来た来た!噂の新しい客が。

「そーなのよォ!だからさー、アンタはダメだってのよ!」
メガネをかけた女が、デカい声で身振り手振りで話している。
「そーなんですかぁ?あたしわかんなかったですぅー!」
口元に手を持って行って、首を右30℃に傾げ、えへっ☆と笑う女が続く。

そして無口に入ってくる男女二人。
一人は、見た目けっこうかわいい女。
後から入ってきたのが、これまたちょっと気弱そうなメガネの男。

いつもこの組み合わせじゃないんだけど、似たような顔ぶれで時々やって来ては、
カウンターに陣取る。
会話の内容からすると、どうやらどっかの病院のナースらしい。

「あー、バーテンダーさぁん☆元気だったぁー?」
今度は首を左に30℃傾け、ぶりぶり女が手を振る。

こんな至近距離で手を振らなくてもいい。(怒)
あ、またマンハッタンのマスターみたいになってんな、俺。

「いらっしゃいませ・・・」
俺が若干いやいや挨拶すると、
「あ、なんかテキトーに作ってよ!おまかせおまかせ!!・・・でさー!」
オーダーもそこそこに、メガネ女はまた会話に戻っていく。

「うふっ☆」
ぶりぶり女は、俺に目線を投げかけたままだ。
メガネ女が話しかけてんだろが?聞いてやれよ?!

でも、俺がどうも気になるのは、あとの二人だ。
この二人、いったいどういう間柄なんだろう?
先生とナース?
でもこんな気弱そうな先生、しかもこんなカジュアルなカッコしたヤツっているかぁ?
インターンかな?

俺は、テキトーに作ってくれと言われたから、まぁ無難なカクテルを4人分作って出す。

「おまたせいたしました・・・」

「ったく待っちゃったわよォ!!」
いちいち文句つけんなよ、メガネ女。

「あぁっ☆これ、色がきれいぃ〜☆うふっ☆」
いくら微笑んでも、何にもオマケなんて出ねーぞ?

「すみません・・・」
メガネ男が頭を下げる。

「・・・・・」
かわいい女はだまったままだ。
が、突然、ベソベソと泣き出した。
「どーせあたしなんて、いっつもドジばっかりの半人前のナースなんだわぁぁっ!!」
カウンターにつっぷした。

はー・・・今日はこれかよ?

すると、メガネ男が口を開いた。
「そんなことないです!矢野原さんはいつも一生懸命じゃないですかっ!
 失敗なんて誰にでもあります!メゲないでくださいっ」

へーぇ、こいつけっこう熱いんだ?

「高沢さん・・・」
かわいい女が顔を上げて、メガネ男をそっと見た。
メガネ男は・・・肝心なメガネ男は・・・おいっ!おまえだよっ?!
女が見てんだろ?!気づけよ?!

俺は思わず、メガネ男に目配せをした。

「はい?」
メガネ男は俺の顔を見て、?????な顔をしている。
だめだ、こいつには女の気持ちはわかんねーらしい。
俺の方がなんだかガクッとするよ。

「そーいえばぁー☆バーテンダーさんと高沢くんって、なんか似てませぇん?
 ほら、なぁーんか雰囲気がぁ☆ねっ??」
ぶりぶり女が、うるうるした目で俺を見ている。

俺とこのメガネ男がっ?!似てねーよ!と思わず言いたくなったその時。

「ええっ?!バーテンさんと高沢がーっ?!ンなもん似てない!似てないって!!
 こんなドジな男と一緒にされちゃー、バーテンさんもメイワクよねぇー?ハハハッ!!」
メガネ女が豪快に笑った。

「そうだなぁー☆確かにバーテンダーさんの方が全然かっこいいかもォ〜☆
 ねぇ?バーテンダーさん?☆☆☆」
俺にウィンクをするぶりぶり女。

「そんなことないと思いますけど!」
かわいい女が小さい声でぼそっと言ったかと思うと、グイッとグラスを飲み干した。

「ああ、矢野原さんっ、そんなペースで飲んじゃ・・・」
メガネ男はただ心配するだけだ。
いいヤツには違いないんだろうけど、どうも鈍感すぎる。

その後、メガネ女とぶりぶり女は、やたら陽気にしゃべって飲んで、
かわいい女はひたすらぐいぐい飲み、メガネ男はそんな女を心配そうに見ていた。

そして・・・かわいい女は
「ああもーっ・・・ばかやろーっ!・・・・・・」
一言叫んだかと思うと、パタッとカウンターにつっぷしたまま、動かなくなった。

「矢野原さん?矢野原さん?」
メガネ男が呼びかけるが、答えはない。

「あーあ、矢野原、酒に飲まれるようじゃまだまだだねーぇ!」
メガネ女が腕組みをしながら、あしらうように言う。

「あ、僕、矢野原さん送って行きます」
メガネ男は、よいしょとかわいい女をおんぶした。

「さーて、そろそろうちらも帰るかねー?」
「そうですねぇー☆バーテンダーさぁんっ、また来まーすっ☆」
メガネ女とぶりぶり女も席を立った。
「じゃあねぇ〜ん☆バーテンダーさぁん☆」
ぶりぶり女、しつこい。(怒)

「ありがとうございました・・・」
俺はいちおう頭を下げて挨拶した。

すると・・・あのメガネ男が女をおんぶしたまま、戻ってきてこう言った。
「いつもお騒がせしてご迷惑をおかけしてます、すみません」

「いえ、またいらしてください」
俺はポーカーフェイスで答えた。

ふーん、あいつ、なかなかいいヤツじゃん。
俺もメガネかけたら、少しインテリに見えるかな?
・・・・・・・。
ムリか・・・。


オアシスにはいつもの静寂が戻った。
あの二人、どうなって行くんだろう?
ひとごとながらちょっと楽しみだ。





BGM : TOKIO 「自分のために/for you」