「オアシス 〜舞駕家の人々〜」



「お先に失礼しまーす。お疲れっしたー」

僕はオアシスのドアを開けて、通りに出た。
外はほんのりと明るくなっており、今日が晴れであることを告げるかのように、
青空がのぞいている。

昨夜のお客さんはけっこう酔ってたなぁ、と振り返ってみる。

「あら、こちらが新しい人?よろしくぅ〜〜〜♪一曲お願いしちゃおうかしら?」
「はい。よろしくお願いしますm(_ _)m」

僕は鍵盤に手を置いて、おまじないのように一呼吸する。
弾き始めたのはショパンの「別れの曲」。
すると、お客さんが突然泣き出した。

「それってイヤミ〜?(ToT)」
「あゎゎゎ・・・二郎くん!それダメ!!」

紫狼さんがあわてて首を横に振った。
佐々倉さんは、ひたすらグラスの輝きを確かめている。
失敗したぁぁ!!何気ない選曲ってむずかしいなぁ・・・。


「ただいま・・・」と言いながら、玄関先に散らかった4足の靴をきちんと並べる。
リビングの前を通ると、まだあかりがついてる。

「あ、二郎くん、おかえり」

弟の三郎がまだ起きていた。弟のくせに、僕のことを二郎くんと呼ぶ。

「こんな時間まで何してたの?」僕がきくと、三郎は
「うん、ちょっとね・・・」と言った。
母さんの写真を手に取りながら「思い出してた」。

三郎はいちばん母さん思いだったからなぁ。

四郎が起きてきた。

「二郎兄ちゃん、今帰りぃ?ふぁぁぁ〜」と、あくびをしながら言う。
「そういや、店長さんってオレとおんなじ名前だったっけ?」
「うん、そうそう。店長さんって言うと怒られるけどね(^_^;)」
「どんな人?」
「うーーーーーん・・・アニキって言うか・・・・・」
「一郎兄ちゃんみたいな人?」
「全然っ!!真逆!!」
「あんな年がら年中眠そうで、釣りのことばっか考えてるヤツなんていねーか?」
「そうそう、いないって!」思わず笑ってしまった。

「オレが何だって?」
ウワサを聞きつけたかのように、一郎兄ちゃんが起きてきた。

「今日は何?また釣り?」
「んな、いつも釣りばっかじゃねーよ!」
「そーそー、こないだ一郎兄ちゃん、仕事より釣り優先で上司に怒られたんだよ?」
三郎が笑いながら言った。
「それ言うなって!」

母さんが亡くなってから、一郎兄ちゃんは長男としての自覚が少し芽生えたようで、
ほんのちょっとだけ頼もしくなった。
が、実質的にサポートしてるのは僕だったりする。(^_^;)

父さんは単身赴任でしばらく帰って来ないから、家の中は5人の野郎だけで
過ごしてる。

「なに?五郎まだ寝てんの?」
「あいつ、やっと最近勤め始めたっつーのに・・・」
「なんか疲れるみたいだよ。昨日は犬追っかけてたらしい」
「それ、何の仕事?」
「さぁ?」
「あー、少し寝る。オヤスミー」と、僕は告げて、ドアを閉めかけた。

舞駕家の朝は、いつもこんな感じだ。今日の食事当番は誰だろ?
なんか・・・コゲ臭い気が?

「一郎兄ちゃん、魚コゲてる!コゲてる!」
「あ・・・・」
「どーすんの?コレ」
「・・・食える!」
「そりゃ魚好きな一郎兄ちゃんはいーだろーけどさぁ」
「イヤなら食うな!」
「兄ちゃーーーん・・・」
「ガンになったらどーすんだよ?!」

あぁまたか。一郎兄ちゃんはマイペースすぎる。(-_-;)
僕はカンペキに寝るタイミングを失った。

三郎がコゲをそぎ落として、なんとか修復しようとしてるけど、やるだけムダな
気がする。

「皮、はげ!中だけなら食える!」
「中、生焼けなんだけど?」
「えーい!レンジでチンだ!!」

「なに騒いでんだよ?」やっと五郎が起きてきた。
「オレ、疲れてんだけど?」
「ついこないだまで人妻相手にしてたヒモみてーなヤツが何言ってんだ?!」
「一郎兄ちゃん、その言い方やめてくれる?(=_=)」
「まぁまぁ、二人とも・・・」温和な四郎が割って入る。
「おめーだってフリーターだったろーがぁ?!」
「それ、いつの話?それを言うなら、一郎兄ちゃんだって歌のおにいさんなんて
 やってたじゃんかよ?!」
「それこそいつの話だよ?!」

あぁ。会話が入り乱れてわけわかんねぇ。(-_-;)
今日はピアノの練習やめて、昼過ぎまで寝てよっと・・・。

舞駕家の一日はこれからもずっとこんなだろう。
男臭くてうるせーけど、平和で幸せな毎日。

僕はうーーーーーーーんと伸びをして、大きなあくびをした。









BGPV : 嵐 「マイガール」


勝手にすぺしゃるさんくす : 舞駕家5人兄弟(^_^)v