「オアシス」 〜うそつきぃ〜

先日、下の階に住んでたダチの桧原(愛称:ヒノッチ)が、結婚してここを
出て行った。

二世帯住宅みたいだったこの家も、下にいるヤツがいなくなると、
なんだかちょっと淋しい。

正月休みも今日までで、明日からまた店を開ける。
年々正月も大して楽しめなくなってきたのは、俺が年食ったってことだろうか。

ピンポーンと呼び鈴が鳴る。一応まだ三が日なんだけど?誰だ?
ピンポンピンポンと連打。うるせぇな、誰だよ?

「はいはい」と階下の玄関を開けると・・・豆千代さんだった。

「ごめんねぇー、ちょっとい〜い?」
「豆千代さん、いい具合に出来上がっちゃってますね」
「そぉぉ?おじゃましまーす♪」
「ちょっと豆千代さん!!それで階段上れんのかよ?!」

酔っ払って階段を踏み外しそうになる豆千代さんを、後ろから支えた。

「あ、オシリさわったでしょ?!セクハラだぁー!!」
「さわってませんってば!!」

あー・・・まだ三が日なのに。店は明日から営業なのに。もう営業状態。

「お水ちょーだい!!」

豆千代さんはすでにこたつの前に陣取り、水をオーダーしている。

「はいはい」
「ありがと。あ、ごめん、ペットボトルごとくれる?」
「はぁ?」

豆千代さんは俺からペットボトルをふんだくると、一気にごくごく飲んだ。

「あのねぇ、豆千代さん、あなた一応芸者さんでしょ?」
「うん、芸者」
「おかみさんに怒られんじゃないの?ふだんからそんなだと」
「えぇ?もういい年だしぃ。それにふだんはこんなじゃないわよ、バカねぇ」
「バカ呼ばわりか?!」
「紫狼くんは、相変わらず子供なんだからぁ、アハハハ」
「アハハハじゃないすよ!!なんなんすか?この醜態は!?」

すると突然、豆千代さんが押し黙ったかと思いきや、今度はぽろぽろ泣き出した。

「そりゃね・・・あたしはどうせ芸者よ。お稽古して踊って楽しんでもらうのが
 お仕事よ。ごめん、ティッシュ」
「はいはい」

豆千代さんのオーダーは、店より忙しい。

「客の前じゃ、いい顔見せてお誘いもやんわりお断りして、それでも頑張って・・・
 でも、あの人だけは違ったのぉーーーーー!!」
「あの人?」
「だってあの人、あたしだけ呼んでくれてたし、いっつもきれいだね、って・・・」
「そりゃ、あちらにだって営業トークもあるでしょーが」
「営業だけなの?!?!紫狼くんもそーゆーヤツなんだ??」

豆千代さんは今度はキレ始めた。

「いや、適度にお話にお付き合いするのは、俺らの営業でしょ?」
「でもでもぉ・・・結婚するなんて聞いてなかったもん・・・・・」

こたつにつっぷしたまま、しばらく動かなかった豆千代さんが、
ふるふるっと震えながら・・・

「社長さんのうそつきぃーーーーーーっ!!ばかやろーーーーーーーーーーっ!!」

今度は叫んだ。この家ぶっ壊れるんじゃねーか?????

「紫狼くんも、気をつけなさいよ?あとでイタイ目見るから」
「別に俺はそんな・・・」
「あなたが思ってなくても、客は勘違いすんの!!」
「つーか、豆千代さんが勘違い・・・」
「紫狼のばーーーーか!!デリカシーのカケラもないの?!冷たいヤツ!!」

豆千代さんは鼻をかみながら言い放った。
またバカ呼ばわりの上ひどい言われ方だよ。


その後、豆千代さんは延々2時間以上、泣いたり怒ったり大騒ぎだった。
長くなるので省略。(-_-;)
そしてこたつで寝た。風邪引いても知らねぇぞ。疲れた。
明日から営業なのに・・・。(T_T)


むくっと豆千代さんが起き上がった。な、なんだ?また水か?!?

「あたし住んじゃおうかな。下空いてるんでしょ?」
「ヒノッチが結婚して越したから空いてますけど・・・」
「そ、そうよね、ヒノッチも結婚したんだったわね・・・みーんな幸せに
 なっちゃって・・・」

やべぇ・・・禁句を言ってしまった・・・。

「もう!!絶対に下に住んでやる!!」
「いや・・・それはちょっと・・・」
「なに?下に住まわれちゃ困ることでもあんの?!彼女呼べないから??」
「いや、そういうことじゃ・・・」
「あー、そーなんだ?紫狼くんも幸せなんだ??あーそーなんだ??
 いーよねー、みんなして幸せで」


大家さーーーーーーん!!助けてくださーーーーーーーいっ!!(T_T)

(オチもなんもねぇ(-_-;))





BGM : 買ってないけど買ったつもり(^_^;)で、TOKIO 「青春 (SEISYuN)」

もひとつBGM : ポルノグラフィティ 「サウダージ」