Energy Production & Sprint
エネルギー生成とスプリント
私たちのすべての体の運動は、筋の収縮により骨格が動かされて行われます。そして、この筋の収縮は、ATP(アデノシン三リン酸)がADP(アデノシン二リン酸)に分解されて発生するエネルギーによっておこります。運動を継続するには、このATPを供給し続けることが必要です。これらのことについては生物の授業でも習っていると思いますが、糖代謝の過程では、解糖系(2ATP)・TCA回路(2ATP)・電子(水素)伝達系(34ATP)から、トータルで38ATPが発生します。ADPからATPの再合成や、産生に関わるエネルギー発生系には、無酸素系(アネロビック)と有酸素系(エアロビック)があります。そして、運動強度や運動時間によって、これら2つの生成過程は使い分けられます。 | ||||||||
糖代謝におけるATP生成 | ||||||||
段 階 | 生 成 過 程 | ATP生成時の化学反応 | ||||||
第 1 段 階 | 解 糖 系 | C6H12O6 → 2C3H4O3 + 2(2H) + 2ATP | ||||||
第 2 段 階 | T C A 回 路 | 2C3H4O3 + 6H2O → 6CO2 + 10(2H) + 2ATP | ||||||
第 3 段 階 | 電子伝達系 | 12(2H) + 6O2 → 12H2O + 34ATP | ||||||
総 和 | 酸 素 呼 吸 | C6H12O6 + 6O2 + 6H2O → 6CO2 + 12H2O + 38ATP | ||||||
1.無酸素系過程 | ||||||||
@ATP−CP系 | ||||||||
ADPからATPを合成するときに、筋にに蓄えられているクレアチンリン酸(CP)が、クレアチンとリン酸に分解されるエネルギーを使ってATPの再合成を行います。この反応はエネルギー生成の過程で酸素なしにすばやく行えます(体重1kgあたり13kcal/秒)。スタートダッシュなどはこの発生系のエネルギーによるものです。しかし、筋中のCP量はごく僅か(体重1kgあたり100kcal)なので、このエネルギー発生系ではそれほど長く運動を継続できません。全力の運動を行った場合、100/13=7.8秒(実際には約10秒程度)が限度です。 | ||||||||
A乳酸系(解糖系) | ||||||||
10秒を超えて全力運動を続けると、エネルギーの生成過程にグリコーゲンが分解されて乳酸が生成される過程が加わります。この乳酸は酸素が十分に供給されないと筋に蓄積され疲労の原因となります。乳酸系のエネルギー生成は、体重1kgあたり7kcal/秒なので、全力運動を継続できる時間は33秒となり、ATP−CP系と合わせた無酸素系過程の運動継続時間は41秒ということになります。実際のレースにおいては完全な全力運動を行っているわけではないので、さらに運動時間は長くなります。 また、無酸素系過程では、運動中に多くの酸素負債(酸素の不足)が生じるので、運動終了後も呼吸が乱れた状態が続きます。 400m〜800mがレース中から終了直後にかけて苦しいのは、乳酸の蓄積によるものです。 |
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2.有酸素系過程 | ||||||||
3分以上継続できるレベルの全力運動では、細胞のミトコンドリア内で酸素を使ってグリコーゲンないし脂肪が最も効率よく燃焼され、生成されるエネルギー量も非常に多くなります。有酸素系の運動では、運動時に発生する乳酸が少ないので、運動終了後もそれほど呼吸は乱れません。 | ||||||||
エネルギー生成過程と適応する運動時間 | ||||||||
エネルギー系 | 無酸素系 | 有酸素系 | ||||||
ATP−CP系 | ATP−CP系+乳酸系 | 乳酸系+有酸素系 | ||||||
運動継続時間 | 10秒 | 10秒〜1分30秒 | 1分30秒〜3分 | 3分以上 | ||||
該当種目 | 100m・100mH・110mH | 200m・400m・400mH | 800m・1500m | 1500m以上 | ||||
即 効 性 | 13kcal/kg/sec | 13→7kcal/kg/sec | 7→3.6kcal/kg/sec | 3.6kcal/kg/sec | ||||
疲 労 度 | 中 | 大 | 大 | 小 | ||||
運動を継続する時間によって、使われるエネルギー生成過程は異なります。ですから、自分の専門種目の特性を十分認識した上で、必要なトレーニング要素を含んだトレーニング計画を作成・実施することが必要です。 また、トレーニングによって発生した乳酸は、酸素を供給することで、すみやかに修理しなければ疲労の回復は遅れます。トレーニングの最後に長めの有酸素運動(ロングジョッグ等)を入れたり、マッサージを施したりすることで、疲労の回復に努めましょう。 |
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1.ATP−CP系 | |||||||||||||||||
再合成 | |||||||||||||||||
クレアチン | リン酸 | ← | クレアチン | + | リン酸 | ||||||||||||
→ | |||||||||||||||||
分 解 | |||||||||||||||||
↓ | |||||||||||||||||
クレアチンリン酸をクレアチンとリン酸に分解するときに発生するエネルギーを使ってATPの再合成を行います。 | |||||||||||||||||
↓ | |||||||||||||||||
再合成 | |||||||||||||||||
アデノシン | リン酸 | リン酸 | リン酸 | ← | アデノシン | リン酸 | リン酸 | + | リン酸 | ||||||||
→ | |||||||||||||||||
分 解 | |||||||||||||||||
↓ | |||||||||||||||||
ATPをADPに分解したときに発生するエネルギーを使って筋収縮がおこります。 | |||||||||||||||||
2.解糖系 ・ TCA回路 | |||||||||||||||||
炭水化物 | 脂 質 | たんぱく質 | |||||||||||||||
↓ | ← | ← | ← | ← | ← | ← | ← | アスパラギン酸 |
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↓ | |||||||||||||||||
↓ | ← | ← | ← | アラニン |
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解糖系 | |||||||||||||||||
↓ | ↓ | ||||||||||||||||
ブドウ糖 C6H12O6 |
脂 肪 | ||||||||||||||||
↓ | ↓ | ||||||||||||||||
↓ | ↓ | ||||||||||||||||
↓ | ↓ | ||||||||||||||||
六炭糖二リン酸 | |||||||||||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||||||||||||
↓ | 三炭糖リン酸 | 三炭糖リン酸 | ↓ | 脂肪酸 |
グリセリン |
グルタミン酸 | |||||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | |||||||||||||
↓ | 乳酸 C3H6O3 |
→ ← |
ピルビン酸 C3H4O3 |
← | 酢酸 CH3COOH |
↓ | |||||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||||||||||||||
→ | → | ↓ | アセチル CoA | ||||||||||||||
↓ | ↓ | ||||||||||||||||
← | ビタミンB1 | ||||||||||||||||
↓ | ↓ | ↓ | |||||||||||||||
オキサロ酢酸 C4H4O5 |
→ | クエン酸 C6H8O7 |
→ | アコニット酸 C6H6O6 |
↓ | ||||||||||||
↑ | ↓ | ↓ | |||||||||||||||
イソクエン酸 C6H8O7 |
↓ | ||||||||||||||||
リンゴ酸 C4H6O5 |
TCA回路 | ↓ | ↓ | ||||||||||||||
↑ | オキサロコハク酸 C6H6O7 |
↓ | |||||||||||||||
↓ | ↓ | ||||||||||||||||
フマル酸 C4H4O4 |
← | コハク酸 C4H6O4 |
← | α−ケトグルタル酸 C5H6O5 |
← | ||||||||||||
3.電子(水素)伝達系 | |||||||||||||||||
ATP | ATP | ATP | |||||||||||||||
↑ | ↑ | ↑ | |||||||||||||||
NADH2 | → | ← | FAD | ← | → | Fe2+ | → | ← | Fe3+ | ← | → | Fe2+ | → | ← | 1/2O2 | ||
↓ | ↑ | ↓ | ↑ | ↓ | |||||||||||||
↓ | e- | ↑ | チトクロームb | ↓ | チトクロームc | ↑ | チトクロームa | ↓ | |||||||||
↓ | ↑ | ↓ | ↑ | ↓ | |||||||||||||
NAD | ← | → | FADH2 | → | ← | Fe3+ | ← | → | Fe2+ | → | ← | Fe3+ | ← | → | H2O | ||
↓ | ↑ | ||||||||||||||||
→ | → | → | → | → | → | → | → | → | → | → | |||||||
2H | |||||||||||||||||
電子伝達系では、上記の表のようにサイクルのなかで電子を受け渡し、その過程でATPを生成していきます。 | |||||||||||||||||