Knowledge of Strength Training

筋力トレーニングの基礎知識



はじめに
筋力トレーニングはパフォーマンスを向上させるために必要なトレーニングですが、正しい知識と適切な活用をしないと十分な効果は得られません。筋の収縮や筋の発達など基礎的な知識を踏まえた上でトレーニング計画を作成してください。



骨格筋の機能
             
1.筋の収縮
 
筋はその収縮の仕方が異なると発揮する力も変化します。例えば、ある人が肘を90°の角度から角度を小さしようと腕を曲げます。そこへ、別の人が肘の角度を大きくしようと反対側に力を加えます。
このときに、2人の力が拮抗しているならば、どちらにも動きません。このときの筋は筋の長さは変らずに収縮しています。これを静的収縮(等尺性収縮)といいます。また、自分よりも相手の力の方が弱いときには肘関節は小さくなり、このときの筋は収縮しながら長さも短くなります。これを短縮性収縮といいます。反対に、相手の力の方が自分よりも強ければ、筋は収縮しながら長さが長くなります。これを伸張性収縮といいます。短縮性収縮も伸張性収縮も動きながら収縮しますので、これを動的収縮といいます。
 
2.筋収縮の分類
 
静的収縮 等尺性収縮   Isometoric   筋がその長さを変えないで収縮する   張力は変化する
動的収縮 短縮性収縮   Concentric   筋がその長さを短くしながら収縮する   張力は一定
伸張性収縮   Eccentric   筋がその長さを長くしながら収縮する   張力は一定
 
3.関節角度と筋力
 
関節の角度が変れば手や足で発揮できる最大筋力は変ってきます。例えば肘関節の角度の変化による手首の最大筋力の変化を見ると、肘関節角度が90°〜100°くらいのときに最も大きな力が出ています。
 
関節角度の変化に伴う最大筋力の変化の原因
 
  1.筋自体の発揮する最大筋力は、その長さが変れば変化する。
  2.筋の力が一定でも関節角度が変れば力の能率が変わり、外部に作用する力が変化する。
 
4.筋収縮の力と速度
 
重いものを持ち上げようとすると大きな力がいりますが、速く持ち上げることはできません。逆に、軽いものを持ち上げる時は、速く持ち上げることができます。この力(負荷)と速度の関係については一定の法則性があることが実験的に確かめられています。

力と速度の積はパワーです。パワー曲線によると、パワーが最大になるのは、男女とも35%という結果になります。言い換えれば、筋に最大限のパワーを発揮させようとする時は、等尺性最大筋力の1/3の負荷の重りを選べばよいということです。
 
5.筋繊維の性質とそのはたらき
 
 (1)速筋線維(FT線維)と遅筋線維(ST線維)
筋線維は大きく2つの性質の異なる線維に分類することができます。その性質を区別する方法として、筋線維が収縮するときの時間を測定し、その収縮が速いか遅いかにより、それぞれ、速筋線維(FT線維)、遅筋線維と呼んでいます。FT線維は、ジャンプ・短距離走・あるいは球技のすばやい動作等、短時間のパワフルな収縮をするときに重要な働きをする筋線維です。一方、ST線維は、マラソン・長距離走など持久的な運動において主として働く筋線維です。

このように異なる機能特性を持つ筋線維があるということは、この両線維のいずれかの筋線維が多いか少ないかによってスポーツや運動の成績が影響されると考えられます。
 
筋線繊維 筋線維の太さ 収縮速度 最大筋力 筋の色彩 疲 労 適応種目
FT 太  い 速  い 大きい 白 い 疲労しやすい Sprint・Jump・Throw
ST 細  い 遅  い 小さい 赤 い 疲労しにくい Distance
 
 (2)筋線維タイプと運動成績
 
FT線維とST線維の2種類のタイプの筋線維が交じり合って1つの筋を形成しています。この混ざり具合は個人によって異なり、その個人差が運動能力に影響を与えるといわれています。
一流の競技選手についての研究報告によりますと、それぞれの筋線維の比率と競技種目との間には密接な関係があることがわかります。例えば、マラソン選手ではST線維の占める割合は非常に高く(80%以上)、一方、短距離選手ではFT線維が60%以上を占めていることが明らかにされています。この筋線維の性質を調べる方法はバイオプシー(Biopsy)とよばれ、これは筋組織の一部を削って検査するものです。大学などの研究機関で調べることができますが、検査時に筋が受けるダメージはほとんどないので、機会があれば一度検査を受けてみるのもよいと思います。
 
 (3)筋線維タイプとトレーニング
 
「筋線維の比率はトレーニングによって変化は生じない」ということは、研究によって明らかになっています。例えば、双子の筋線維タイプを測定した結果によると、一卵性双子の筋線維比率は双子間で似ていますが、二卵性双子では似ていません。このことは、筋線維比率は遺伝的影響を強く受けていることを意味します。




筋力トレーニングの基礎
 
1.筋力トレーニングの原則
 
筋力トレーニングを効率よく進めていくためには、以下の原則に従ってトレーニング行うことが必要です。
 
  @意識性の原則   目的を明確にしてトレーニングを行います。
  A全面性の原則   全身的筋力の向上を図り、弱い部分のないようにします。
  B漸進性の原則   トレーニングにともなう筋力アップに応じて、負荷を高めていきます。
  C個別性の原則   個人の能力に応じたプログラムで行います。
  D継続性の原則   定期的に継続して行うことでトレーニング効果を上げることができます。
 
2.筋力トレーニング処方の条件
 
筋力トレーニングを効果的に進めていく上での具備すべき条件は、どのくらいの強度(負荷抵抗・重量)の運動を何秒間・あるいは何回(持続時間)実施したらよいか、そして、どのくらいの頻繁に(頻度)実施したらよいかといったことです。
 
 @強度(Strength or Intensity)
 
できるだけ強い抵抗をかけたほうが筋力増大効果は大きいといわれていますが、このことは、筋力発揮のメカニズムを知れば理解できると思います。筋力は単に筋肥大によってのみ増大するのではなく、集中性の向上によっても増すことを知れば理解できると思いますます。ですから、強度の条件も、筋肥大を目的で行うか、集中性を高めるために行うかによって異なるわけです。
筋肥大を主体に筋力アップを目指す場合は、一般的には最大筋力の約70%以上の負荷が必要といわれています。これに満たない負荷をかけ続けても、筋力はアップしません。
 
 A持続時間(Duration)
 
トレーニングの種類によっても異なります。
  
 B頻度(Frequency)
 
筋力トレーニングは24時間毎に行うことが最も効果的といわれています。これは、筋収縮不応期が24時間といわれるからです。しかしながら、個人差や運動様式のちがい(Isotonics or Isometrics)によって、一概にはいえません。アイソトニックスは1日ないし2日おき、アイソメトリックスはもう少し頻繁に行っても可といわれています。
また、ビギナーやトレーニングレベルの低い者はもっと休息を入れて行う必要があります。
 
 
アイソメトリックス
 
1.アイソメトリックス処方の条件
 
 @強度と持続時間
 
下の表にみられる最低限度とは、生理学的にみてこれくらいの持続時間が必要とされることを示し、実際にトレーニングを行うときは、適正限度に示す各強度に対する持続時間で行うことが勧められます。
また、体力を温存したい場合には、最も力の出しやすいところ(関節角の大きい・筋が伸展された位置)で1セット行います。
 
トレーニング強度
(最大筋力比:%)
トレーニング時間
(収縮継続時間)
最低限度 適正限度
40 〜 50 15 〜 20 45 〜 60
60 〜 70  6 〜 10 18 〜 30
80 〜 90  4 〜  6 12 〜 18
    100  2 〜  3  6 〜 10
 
 A頻度
 
アイソメトリックスにおけるトレーニング間隔と筋力増加率を実証したグラフを見ると、毎日ないし1日おきに実施することが最大の効果を上げています。最低でも週1回は行わないと筋力は維持できません。
 
2.アイソメトリックスのメリットとデメリット
 
 @アイソメトリックスのメリット
 
 a.短時間に簡単にトレーニングができる。
 b.用器具がなくても、何処でもトレーニングができる。
 c.疲労が少ない(エネルギー消耗が少ない)ので頻繁にできる。
 d.スティッキング・ポイントの集中的な強化ができる。
 e.緊張筋(Tonic Muscle)の活性化に特に効果的。
  f.リハビリテーション・エクササイズの一部として行う筋力強化方法として活用できる。
   中・高年者用の筋力トレーニングとしても安全で、オーバートレーニングに陥り難い。
 
 Aアイソメトリックスのデメリット
 
 a.動きを伴うトレーニングには不向き
 b.持久力のトレーニングとしても不向き
 c.運動が単調
 d.努責が持続しやすい
 e.関節角度に特異性があるので様々な関節角度で行うことが望ましい
 
3.アイソメトリックスとスプリント
 
リハビリテーション・エクササイズの一部として活用します。例えば、肉離れの予後は、いきなりアイソトニックスを導入すると再発・悪化させる危険があるので、筋の動きの少なく負荷の小さいアイソメトリックスのほうが効果的です。
また、接地時のハムストリングはアイソメトリックスの筋収縮をしていますから、コンセントリックな筋収縮によるトレーニングよりも実用的で効果があります。
 
 
アイソトニックス
 
1.アイソトニックスの条件
 
 @強度と反復回数
 
アイソトニックスの強度は、一般に1RM(Reprtition Maximum)、つまり、1回だけ実施可能な最大重量を基準にしてその何%でトレーニングするかという方法がよく使われます。しかし、現実的には、特に初心者に対して1RMの測定は危険であるばかりか、時には有害なこともあり、正確な数値を出すことは困難であるといえます。そこで、適当な重量によって1RMを予測し、トレーニング重量を決定します。
 
高重量低回数制 (Low Repetition System)   重い重量を使って反復回数の少ない方法
低重量高回数制 (High Repetition System)   軽い重量を使って反復回数の多い方法
 
 
トレーニングの負荷値と筋力曲線
 
反復回数 最大筋力比(%) 期待できる主なトレーニング効果
100  % 集中力の高まり(爆発的な)・最大筋力
 97.5%
 95  %
 92.5%
 90  %
 88  % 筋肥大(反復刺激による)・最大筋力
 86  %
 84  %
 82  %
10  80  %
11  78  %
12  76  %
13  74  %
14  72  %
15  70  %
16  68  % 筋持久力
17  66  %
18  64  %
19  62  %
20  60  %
 
 
 Aセット数
 
 初心者 → 多種目小セット制で行うのが一般的
 鍛錬者 → 少種目多セット制で行うのが一般的
 
2.トレーニング・プログラムの作成
 
 @プログラム作成上考慮すべき条件
 
  a.トレーニングの目的   単なる体力づくり・シェイプアップの一環として行う
  スポーツトレーニングの一部として行う
  リハビリテーション・エクササイズの一部として行う
  b.利用可能な用器具・施設
  c.個人の諸条件   年齢・性・経験・体力・運動能力等
 
 Aプログラム作成上の原則
 
  a.筋肉優先法
   (Muscle Priority System)
@ 大筋群の運動種目から始める
A スポーツでは専門的筋力トレーニングから始める
B 特に強化したい運動種目・身体部位のトレーニングから始める
  b.充血法
   (Flushing System)
同一種目を続けて多数セット行うか、同一筋群を何種目かの運動で多角的連続的にトレーニングする
  c.大腿筋群にあっては、最低週1回、できれば2回トレーニングをする
  d.トレーニングの質(重量・フォーム等)と量に変化をつけてトレーニングする
 
3.トレーニングの代表的システム
 
 @最高10回反復法(10RM System)
 
各セットとも10RMで実施する方法。運動量が多く筋量を増やすため、シーズンオフのトレーニングに適しています。
 
 Aピラミッド法(Pyramid System)
 
セット毎に重量を増加していく方法と、逆に減らしていく方法があり、さらにこれを同時に行ってセット毎に重量を漸増して1RMに近づいたら、次にセット毎に重量を漸減していく方法があります。特に大筋群について強力な筋力を必要とする場合、この方法は有効です。
 
 B交互反復法(Super Set System)
 
2種目の運動を選んでこれを1スーパーセットとして行う方法です。2種目を組み合わせる方法としては、次のようなものがあります。
 
@ 拮抗運動または拮抗筋を選ぶ方法 例 → スタンディングスローカールとフレンチプレススタンディング
A 同一筋群を選ぶことのできる異なった運動種目を選ぶ方法 例 → バーベルベンチプレスとダンベルベンチプレス
B 強い運動と弱い運動を組み合わせる方法 例 → スクワットと軽いダンベルでのストレートアームラテラルレイズ
 
なお、3種目合わせる方法(Tri Set System)4種目合わせる方法(Giant Set System)もありますが、ともに強度の高い、より筋持久力に向くトレーニングになり、このように連続して休息なく実施する方法をノンストップトレーニング法(Non Stop Training System)といいます。
 
 Cマルティ・パウンディジ法とフォースト・レペティションズ法
  (Multi poundage System and Forced Repetitions System)
 
基本的には1セットの運動中に補助者によって漸次重量を軽減してもらって実施する方法です。
 
マルティ・パウンディジ法 反復が困難になったら、補助者によってプレートを取り除き重量を減らしてもらって続行する方法
フォースト・レペティション法 反復が困難になったら、補助者が軽くバーベルを引き上げて強制的に行う方法
 
 Dパーシャル・レインジ法(Partial Range Method)
 
1回の反復は一般に全関節可動範囲の運動、いわゆる、フル・レインジ・ムーブメントで行われますが、関節角度、つまり筋肉の長さや重力の関係で動作中筋力が変化するため、ある部分の関節可動範囲を取り出して適度な負荷重量をかけて運動する方法です。例えば、ハーフスクワットなどはこの類になります。
 
 E分割法(Spiit Routine)
 
トレーニングが慣れるにつれて実施したい運動種目および運動量が増えるため、1日で実施するのは困難になってきます。そこで、運動種目や運動強度、体のトレーニング部位を日によって分けて実施する方法です。
 
 Fプレイグゾースチョン法(Preexhaustion System)
 
この方法は、基本的にはBのスーパーセット法の応用で、2種目の組み合わせ方にさらに工夫を加えています。2種目のうち最初に行う種目で大筋群をトレーニングし、協同筋として働く小筋群などを疲労させないようにして、次の種目でこれら筋群を同時に使うようにするわけです。例えば、ベンチ・プレスを行うときには、大胸筋と同時に三角筋や上腕三頭筋を使いますが、これらの筋は大胸筋よりも弱いので先に疲労してしまい。肝心な大胸筋への強い負荷がかけられなくなってしまいます。そこで、最初に大胸筋のみを使うダンベル・ベント・アーム・ラテラル・レイズ・ライングを行ってからベンチ・プレスを行います。
 
 Gレスト・ポーズ・トレーニング(Rest Pause Training)
 
筋力アップのためには、できるだけ高重量を使用する必要があります。しかし、高重量のトレーニングは回数が多くはできないので、トレーニング量が不足し、筋肥大を同時に求めるのには不十分です。そこで、集中性と筋肥大を同時に狙うのがこの方法です。これは、Cのマルティ・パウンディジ法の応用ですが、1〜3RMの重量で始め、継続不可能となったら休息(15〜20秒)を入れ、この間にすばやく重量を減らして1〜2回実施します。この要領で6〜10回反復しますが、介助者がいれば、よりやりやすくなります。この方法は非常に強度が高いので1つの運動種目については1セットのみ、週に1回〜2回程度で十分です。
 
 
アイソトニックスのメリットとデメリット
 
 @アイソトニックスのメリット
 
  a.自由に動作がコントロールできる。
    アイソメトリックスが動きの一部分を捉えているのに対して、アイソトニックスは連続的動作として実施できる。
  b.専門的な筋力トレーニングはアイソメトリックスよりもやりやすいし効果的である。
  c.エネルギーの消耗が多いので、筋肥大や持久力のトレーニングには有効である。
  d.アイソメトリックスより興味あるトレーニングができる。重量と回数がわかるために、達成感や満足感が得られる。
 
 Aアイソトニックスのデメリット
 
  a.危険を伴うことが比較的多い。
    特に、ヘビーウエイトでのクイック・リフト、スクワット、ベンチ・プレスは重大な事故につながることがある。
  b.トレーニング効率はアイソメトリックスよりも幾分劣る。疲労感が強いので、頻繁にはできない。
  c.取り扱いが幾分複雑である。
  d.用器具、特にマシーン類は高価である。
  e.用器具を格納・セットするのに広いスペースを必要とする。
 
 
筋力トレーニングの週間頻度
 
筋の疲労を生じさせるようなトレーニングをしたときには回復するまでに72時間程かかります。ですから、中2日程度の休息が必要となりますが、筋力トレーニング(高負荷重量を用いたトレーニング)の部位が異なれば、分割法を用いて毎日トレーニングを行っても問題ありません。
また、ハムストリング系のトレーニングは、休息日の前日に行うようにしましょう。特に、スプリンターの走トレーニングにおいては、ハムストリングの肉離れが多く発生しますので、注意が必要です。
 
 
1日のうちの筋力トレーニングの配置
 
この点については、「トレーニング計画の作成方法」にも記述がありますが、走トレーニングが終了してから実施します。
特に夕食前に筋力トレーニングを行って、夕食で良質のたんぱく質を摂取すると睡眠中に体がつくられ筋力アップに効果的です。