Analysis of 100m Race
Vol.1 トム・テレツ氏の理論
Profile of Tom.Tellez | |||||||
チャップマンカレッジ大大学院卒 | |||||||
UCLAでの8年間のアシスタントコーチを経て、テキサス州ヒューストン大ヘッドコーチに就任。 | |||||||
カール・ルイス、ジョー・デローチ、リロイ・バレルなどのオリンピック・ゴールドメダリスト、世界記録保持者を育てた。 |
1.レースにおける各要素の重要度 | |||||||
スプリンターが能力とは関係なく、最大限の可能性を引き出すためには、トレーニングにおいて以下のような要素を中心に行うべきである。それは、反応時間・ブロッククリアランス・効率的な加速・トップスピードの維持・減速度の減少である。 100mを10秒00で走ることを基準としてレースを区分けすると、各要素の配分は次の表のように推計できる。 |
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100mレースの要素別重要度 | |||||||
要 素 | レースに占める割合 | ||||||
反応時間 | 1% | ||||||
ブロッククリアランス | 5% | ||||||
加 速 | 64% | ||||||
最高速度の維持 | 18% | ||||||
減速度の減少 | 12% | ||||||
できる限り長い距離を効率的に加速することは、選手がスターティングブロックを離れてからの姿勢に影響される。したがって、ブロッククリアランスがレース全体に占める率は、5%以上になると考えられる。「ブロッククリアランスがレースの加速パターンを決定づける」といっても過言ではない。 |
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2.スタートの目標 | |||||||
@バランスのとれた姿勢をとる。 | |||||||
A重心をやや前に置き、バランスを失わない範囲でできるだけ高い姿勢をとる。 これによって走る方向へ、よりスムーズに飛び出すことができる。 |
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B足首・膝と股関節・胴体の中心・頭まで、すべてを一直線上にまっすぐにしてブロックに力を加える。 | |||||||
C身体からブロックに対して約45°の傾斜角度で力を加えることによって最大水平範囲を得る。 | |||||||
D後ろの膝を約135度に曲げるというのは、後脚の主な役割は、筋肉の伸展反射機能を働かせて運動を起こすことである。 | |||||||
E前膝を90°に曲げる。これで最大の力が最大の時間(速度)で発揮できる。 | |||||||
F結局何よりも肝心なのは、全速走行に移行するにあたって最大速度でブロックを離れることができる位置に両足を置くことである。 | |||||||
3.ブロックの位置を決める | |||||||
ブロックスペーシング(設置距離)は、選手の脚の長さや柔軟性・性別・年齢に関係なく、スタート時のすべての目標を選手が確実にクリアできるようにすべきである。 以下の方法でブロックスペーシングのかなり近い値が得られる。細かい点は「用意」の姿勢で決まる。しかし、経験から、ほんの僅かな調整は必要である。 |
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@普通、選手にとって慣れている方の脚(あるいは利き脚)によって、どちらの足を前のブロックに置くかが決められる。 | |||||||
A前のつま先を後ろの膝の近くに置いてひざまずく。 | |||||||
B両手を肩関節の真下に置いて楽に構える。 身体がちょうど中央にくるように手を身体の側面に位置させ、両腕はいっぱいに伸ばす。 ブロッククリアランスの際に身体が楽に上がるように、肩はできるだけ高くしておくとよい。 その高さまで身体を運ぶ必要がなくなるからである。 |
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C両手は、どちらかの腕が膝にかすかに触れるくらい近くに置く。 | |||||||
D両手と後脚(膝)に平均して体重がかかるようにする。 | |||||||
4.位置について | |||||||
ブロックス・ペーシングを決めたときと同じ姿勢でよい。その他の重要点は以下の通り。 | |||||||
@脚の位置 | 前ブロックではつま先をしっかり地面につけ、後ろブロックでは表面につま先が触れるようにする。 (この足の位置だと傾斜角度45°で力を出しやすくなるようである。) |
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A頭と首の位置 | 頭と首は背骨に対して自然にまっすぐになるように力を抜いて構える。目はトラック上を向くことになる。 (実際に首と頭はスタートの際、またレース中でも自然にまっすぐのままである。) |
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5.用意 | |||||||
[1] 重心をできるだけ高く上げ、両脚は適当に開き、肩をやや前に出して水平方向の分力を作る。 ここでは、腰の高さと前傾の具合が大切である。 この時点で以下の要素を頭に入れながらブロックを調節する。 |
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@腰の高さが効率的なスタートができるかどうかを決める。 | |||||||
a. | 低すぎると・・・ | 角度が狭すぎて重心を走行方向にすばやく移行させることができない。 | |||||
b. | 高すぎると・・・ | 角度が開きすぎて両ブロックに対して力を入れにくくなる。 | |||||
A前傾の具合が効率的なスタートを決める。 | |||||||
a. | 前傾しすぎると | 両手に体重がかかりすぎる。 号砲が鳴ったときに、肩が効率的に上がるのが遅れる。 膝の角度が開きすぎて、後ろのブロックに対して力を入れにくくなる。 |
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b. | 前傾が足りないと | 重心を走行方向にすばやく移行することができない。 | |||||
[2] 後脚の膝の角度は、約135°であると思われる。その利点は次の通り。 | |||||||
@この角度まで広げることで、すばやく動き出すことができるが、これは単に動く範囲がより少なくて済むからである。 | |||||||
A後脚の主な役割は、動作を開始することである。従って、筋力を使うまでの時間が短縮される。 | |||||||
Bこれは、静止した姿勢から最大の推進力が得られる角度である。 | |||||||
Cはじめに後脚の推進力によって得られる身体の速度で前脚に加わる次時間を長引かせる。 そうすることで、加速するのに都合の良い体勢にもっていくことができる。 |
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D後脚の推進力が大きければ、前ブロックにもより大きな力がかけられる。 | |||||||
[3] 前ブロックの最適角度は、進行方向に対して約90°だと考えられる。その利点は次の通り。 | |||||||
@最大の力が最小の時間で出せる。 | |||||||
Aブロックと触れている時間が長いので、より大きなブロック速度を生み出すことができる。 | |||||||
[4] 両足首は少なくとも90°まで閉じる。そうであれば、後ろブロックにより力が入れられる。 | |||||||
[5] 頭は胴体に対して自然にまっすぐになるようにする。 | |||||||
@この時、視線は手と前脚の間にある。 | |||||||
Aよくあるまちがいは、目が同じところを見ていることである。もちろん、首の後ろには力が入る。 | |||||||
6.スタート | |||||||
[1] 後ろブロックに力が加わると(足首の角度は90°に保つ)、後ろの踵から伸展反射がおこる。 | |||||||
[2] 両ブロックに力がかかると、上体が起き始め、前脚が伸びるまで起き続ける。 | |||||||
@その結果、前ブロックにかかった力は胴体を通って一直線に進む線になる。 | |||||||
A身体が地面と45°となることにより、水平方向への最大推進力を生む。 (加速が続いて最高速度に達するまで、胴体は徐々に起き上がり続ける。) |
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トム・テレツ氏が指摘するまちがった指導例 | |||||||
☆肩の位置を低くすればブロックからの推進力が増す。 | |||||||
☆ブロックを出ても低い姿勢でいる。 | |||||||
<上記の後述は、ジョン・スミス氏の理論と真っ向から対立するものです> | |||||||
[3] 腕の動作 | |||||||
@腕は身体(の中央)に近づけておく。 | |||||||
A腕は上腕が肩がピン止めされていて自由に動けるように、肩とは独立して動く。 | |||||||
B前の膝の反対側の腕振りの軌道は後ろ方向である。 (肘の角度は手が腰のあたりに近づく時は開き続け、次に腰を通過すると閉じ始める) |
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C腕の動きは、反対側の脚の動きと力・運動域で釣り合う。 | |||||||
D大きな推進力は、両腕が両脚と調和する時に限って得られる。 | |||||||
[4] 首と頭は、ここでも自然にまっすぐになるようにする。 | |||||||
[5] 前脚推進力、上体の起き上がり、適切な腕の動作が調和して、よいスタートが切れる。 | |||||||
7.効果的な加速スピード | |||||||
100m走における次の目標は、できるだけ長い距離をできるだけ短い時間で加速することである。 ブロック・クリアランスの後の第1歩・第2歩・第3歩で加速のパターンが決まる。力は一歩一歩グラウンドを押すごとに、初めのうちは上下方向にかけられる。 最初の一歩における身体角度は、地面に対して45°になっており、幅は最も短いが最も時間がかかる。第2歩目は幅はやや長くなり、時間も短くなる。 このプロセスが続き、身体が少しずつ起き上がり、やがて最も長く、最も速いストライド・パターンが最高速度を生み出すときに、増え続けるストライドの長さと回数になめらかな融合が生じる。研究によって、60m〜70mの間に最高速度に達することがわかっている。 首と頭は、予想通り始めから終わりまで自然にまっすぐなままであった。腕の動きも、ブロック・クリアランスで述べた同じ軌道をストロークし続ける。 |
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8.最高速度の維持 | |||||||
100m走における加速曲線の研究によれば、60mから85mまでの速度は一定であることがわかっている。したがって、選手は単にスピードの維持に努めるべきで、ここで速度を上げようとしてはならない。 一歩一歩のストライドに関わる一連の筋肉は、収縮から弛緩へと電光石火のようにすばやく切り替わる。トップスプリンターになる秘訣は、推進力を減じることなしに巧みに行い、リラックスした走法を持続する能力である。 |
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9.減速度を少なくする | |||||||
最高速度での筋肉収縮は、ほんの2・3歩のみ可能なため、ラスト10〜15mで気づかないうちに減速が始まる。速度を上げようとすると急速に疲労し、スムーズなフォームが中断され、速度が落ちる。 正しく筋肉を弛緩させることができるようになれば、ラスト10〜15mにおける不当な緊張を防ぐことができる。また、特にレースの最終段階は、この他に酸欠状態における筋持久力という決定的要素がレースを左右する。コンディションをうまく整え、速度の落ちを最小限にとどめる者がレースを勝つのである。 |