再び

 気仙沼の漁業関係者が 果てしなく続く瓦礫の荒野をさまよい、1個5万円するという畳3枚ほどの魚水揚げ用のプラスチックの生け簀を探している。
 「俺達は この気仙沼に 6月にはカツオの水揚げを再開するのだ。」と宣言している姿を見た。 一切合財を津波に強奪された人間の、このたくましい、力強さはどこから来るのだろう。 そうだ、この男達には長く積み重ね、培ってきた漁業の経験と英知があったのだ。

 誰もの思うように
 「俺に何が出来るだろう。」
 「俺はどのように生きていればよいのか。」
 「俺はこんな所でぬくぬくと暮らしていてよいのか。」

 巨大な絶望的光景の前で言葉は虚しくはじけ、とばされ、力を失った。 俺は黙るしかなかった。 そして、重い沈黙の日々を黙ったまま過ごした。
 そんな時に、気仙沼の男の、漁業再開の誓いの言葉を見た。 男達は動き出しているのである。 6月を目指して。

 この6月、俺は気仙沼のカツオを買いたい。
毎朝、毎日、市場に出掛けて行って、気仙沼に揚ったカツオを探そう。 婆娑羅に来てくれる人達に、その気仙沼のうまいカツオをどしどし食べてもらおう。 俺に出来ることはこれしかないとカツオをさばく。

 この破壊に見合う言葉を俺は知らない。 だから、気仙沼のカツオを祈りを込めて、淡々とさばいていこうと思う。


<<追記>>
 立花隆の言によると、この津波のエネルギーは広島の原爆の35万個分の破壊力だと言う。 破壊力の恐ろしさを我々は見た。 だが、放射能汚染の本当の恐ろしさはこれからなのである。 三つ目の原爆が落ちてしまったように思えてならない。

 尚、ゴールデンウィークは暦通りの通常営業です。

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